◆停戦後、イスラエル軍の攻撃で500人の命が
「ガザの人々が帰る場所はがれきしか残らず、がれきの下に埋まっている遺体を掘り起こす機材も足りない。水も電気もない」。ガザの現状をシアム大使はこう話す。「人々はまだショックを受けており、爆撃がやんだだけで何も変わっていないと話す人もいる」。合意後にイスラエル軍の攻撃で命を落とした人が500人にのぼると明かす。
パレスチナ自治区ガザの情勢などについて話す駐日パレスチナ常駐総代表部のワリード・シアム大使=23日、東京都港区で(木戸佑撮影)
食料や薬など人道支援物資がガザに届けられることが必要であり、かつ「停戦プロセスが順守されているか、国際社会による監視が重要」と指摘する。「イスラエル軍がガザから完全に撤収するのか、ハマスなど武装勢力から武器が回収されるか。国際社会は監視団をガザに送るべきで、パレスチナ人もメンバーに含まれるべきだ」。同時に国際刑事裁判所(ICC)による調査が欠かせないという。「イスラエルが行ったことはジェノサイド(集団殺害)であり、民族浄化。停戦したからイスラエルは罰せられなくてよいと『ご褒美』をあげることは間違っている」 恒久的な和平にはパレスチナが国家として独立することが不可欠だと改めて訴える。「数々の話し合いが持たれてきたが、イスラエルが論点を矮小(わいしょう)化し、国連で話し合われた(パレスチナ国家とイスラエルが共存する)2国家解決の枠組みは忘れられた。国際法の尊重なしに、パレスチナの独立なしに平和は永遠に訪れないことを、国際社会に改めて考えてほしい」 ◇ ◇◆「国際メディアがガザで取材・記録することが必要」
シアム大使は、23日に東京都港区のパレスチナ代表部で取材に応じた。この日、ガザのドキュメンタリー映画「手に魂を込め、歩いてみれば」(12月公開)の試写会もあった。
映画「手に魂を込め、歩いてみれば」の試写会=23日、東京都港区で(木戸佑撮影)
イラン出身のセピデ・ファルシ監督が、ガザのフォトジャーナリスト、ファトマ・ハッスーナさんと1年にわたり続けたビデオ通話の映像を中心に構成した作品。イスラエルは外国人記者のガザ入域を認めず、内部で取材している記者を攻撃対象にしているともされ、ファトマさんも今年4月に空爆で殺された。シアム大使は報道の役割について「国際メディアがガザで取材・記録することが必要。真実は必ず明らかになる」と話した。ワリード・シアム レバノンのベイルート出身。イスラエルによる占領により、1948年にエルサレムからの離郷を余儀なくされた難民の両親のもとに育つ。アメリカの大学で政治と国際関係学を専攻し、1994年パレスチナ自治政府の国際協力省に入省。同省では北米局長、援助調整部長、世界銀行局長、日本・アジア局長を歴任。1999年に非駐在の日本・韓国代表に任命され、パレスチナと日本のあいだを数十回も行き来した。日本における常設機関の開設に尽力し、2003年に駐日パレスチナ代表部を開設。以来、駐日パレスチナ大使として日本とパレスチナの友好関係強化と二国家解決実現に努め、日本によるパレスチナ独立国家承認を働きかけている。三男二女の父。
◇ ◇ 【ワリード・シアム大使インタビューの詳しいやりとり】◆ハマスとネタニヤフ首相はお互いに
──イスラエルとハマスが停戦に合意したものの、その後もイスラエル軍の攻撃でガザの住民が亡くなるなど、停戦が継続されるか予断を許さない状況です。現状をどのよう見ていますか。 2年に及ぶ戦闘の末に達成された今回の停戦は、もちろん必要なものではありますが、極めてもろい、不完全なものであります。主要な攻撃の作戦を停止するという合意がペーパー上はなされてはいますが、イスラエル軍による武装兵士などへの攻撃はいまだに続いている状態で、停戦を損ない、民間人を再び危険にさらしています。停戦合意がなされてからすでに500人の方たちが命を落としており、これは一体どういう停戦なのかと。ルールがいまだにきちんと守られず、(国際社会から)監視されていない。クリアなメカニズムがきちんと整っていないと言わざるを得ません。
パレスチナ自治区ガザの情勢などについて話す駐日パレスチナ常駐総代表部のワリード・シアム大使=23日、東京都港区で(木戸佑撮影)
ハマスとネタニヤフ・イスラエル首相は、いわばお互いがお互いをサポートし合っている関係で、お互いがお互いの存在を使って力を維持してきた。どちらか一方が失脚し力を失ったら、もう一方も力を失う。そう考えられます。◆「爆撃の音がなくなった以外は何も変わっていない」
──ガザの人たちは今どのような心境なのでしょうか。 戦争が終わっても、ガザの人たちが帰る場所はもうがれきしか残っていません。家族や親族を失った人たちは、がれきの下に亡くなった方たちが埋まっている状態ですが、がれきをどかす機材も十分にありません。水も電気もない。イスラエルはいまだに、ガザに入る援助物資の数を制限・管理している状態なので、十分ではない。少なくとも爆撃の音が聞こえなくなりましたが、皆さんまだショックを受けています。戦争が終わった後というのは、たとえそれが終わった後も、長い時間「生き残りのメンタリティ」というのか、サバイバルモードが続いてしまうのですね。完全に安心しきることはできない。薬もない、病院もない、必要なものが何もない状態ですし。「爆撃の音がなくなった以外は何も変わっていない」と話す方もいます。◆日本の皆さんにお伝えしたいことは
──停戦合意まで2年以上かかり、ガザでは6万7000人以上の人が殺されたとされます。国際社会に対して伝えたいことは何でしょうか。 個人的に、死者6万7000人というのは数字が正確ではないと思います。けがをした人たち、行方不明になった方たち、イスラエルが監獄に入れたり誘拐したりした人たち、そして正確な数は分かりませんがイスラエルが遺体を葬ってしまった人たちもいます。ですから6万7000人という数字は正確ではないと考えます。
駐日パレスチナ常駐総代表部で開催された映画「手に魂を込め、歩いてみれば」の試写会であいさつするワリード・シアム大使=23日、東京都港区で(木戸佑撮影)
国際社会、日本の皆さんにお伝えしたいのは、この非人道的な現実を理解していただきたいということです。今起きているのは民族浄化、エスニック・クレンジングです。そして飢餓、不法な入植地の拡大、そしてヨルダン川西岸地区でもガザでもそうですが、国境の管理や閉鎖。西岸ではおよそ1000のチェックポイント(検問所)があります。今の超右翼的なネタニヤフ政権は、車を燃やしたり、村を燃やしたりといったことも行っていて、(パレスチナの)人々が育てているオリーブの木も破壊している状態です。 今回の合意によってすべてのことが終わったと考えることはできません。いまだにパレスチナの人たちは集団的な懲罰を受けている、ろうやに入っているような状態です。ですから国際社会はイスラエルに対して、これらを止めることを強制しなければなりません。ガザの人たちは、ガザの中でも狭いエリアに押し込められており、ナチス・ドイツの強制収容所と同じ状況に置かれているのです。 もちろ...残り 2962/5924 文字
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