米国で製造が終了する1セント硬貨=ロイター

【ニューヨーク=谷本克之】米造幣局は12日、最後の1セント(0.01ドル=約1.54円)硬貨を製造した。製造・流通コストが額面価値の4倍近い3.69セントになり、2月にトランプ大統領が製造の終了を命じていた。クレジットカードなど電子決済の進展により、硬貨の必要性が低下している背景もある。

1セント硬貨は「ペニー」とも呼ばれており、議会が硬貨法を可決してから1年後の1793年、米国初の硬貨として製造を開始した。当時は物価水準が低く、1セントでビスケットや飴などを買うことができた。現在では推定で3000億枚が流通しているものの、物価上昇や電子決済の進展で実需が低下している。

12日、ベッセント米財務長官が米フィラデルフィアの造幣局の式典に参加し最後の硬貨を打刻した。

コスト、額面の4倍弱の3.69セント

1セント硬貨の製造終了をめぐっては、2月、トランプ大統領は自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」で1セント硬貨の製造に2セント以上かかっていると指摘し「もったいない」に投稿。国家予算の無駄遣いだとしてベッセント米財務長官に対し、製造をやめるように指示したことを明らかにした。

造幣局によると1セント硬貨を製造・流通するのに3.69セントかかり、10年前から約2倍に上昇した。2024年度の製造枚数は硬貨31億7200万枚で全硬貨の54%を占めており、1セント硬貨の生産で同年度には8500万ドル(約131億円)の赤字が発生した計算になる。米FOXビジネスによると造幣局は製造停止で年間5600万ドルを節約できると見込む。

現金派は減少

クレジットカードなど電子決済手段が発達し、硬貨の必要性も低下している。米調査会社ピュー・リサーチ・センターによると通常の買い物で現金を全く使わないと回答した人の割合は2015年の24%から22年には41%に上がった。

調査会社YouGov(ユーガブ)が3月に公表した調査では米国人の42%が1セント硬貨の廃止を支持しており、反対は30%にとどまった。

一方で、米CBSによると、レジでのお釣りの準備などに関して一部の小売業者は1セント硬貨がなくなる影響を憂慮しているという。

1セント硬貨は製造が終了しても引き続き買い物で利用することができる。米FOXビジネスによると硬貨は製造から約30年間流通するため、すぐに不足することはない。

1セント硬貨をめぐってはすでにカナダ、スイス、オーストラリアニュージーランドで生産が停止している。日本の造幣局によるとキャッシュレス化の影響で1990年に27億枚だった1円玉の年間発行枚数は24年には51万枚に減少した。1枚当たりの製造コストは公表していない。

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