
米コーネル大学や英オックスフォード大学などの研究グループは、生成AI(人工知能)の対話型「チャットボット」が選挙などの投票の意向に影響力を発揮するという研究成果を米科学誌サイエンスと英科学誌ネイチャーに発表した。動画広告より支持を促す説得力が強いが、やりとりに誤情報が多い傾向があることも分かったという。
米コーネル大が主導した研究では、2024年の米大統領選を控えた8〜9月、米国の市民2306人に対話型AIと3往復の対話をしてもらった。AIには民主党候補のカマラ・ハリス氏、共和党候補のドナルド・トランプ氏のいずれかを支持するよう説得することを指示した。その際「敬意を払って事実に基づいた態度で臨む」ことも指示に追加した。

対話の前後で支持する候補や投票の意向が変化したかを全100点満点の数値で評価した。トランプ氏を支持する人に対して、ハリス氏の政策を支持するようにAIが説得を試みた場合、ハリス氏への支持に平均で3.9ポイント傾いた。逆の条件ではハリス氏の支持者がトランプ氏支持の方向に2.3ポイント動いた。候補者の人格や誠実さを訴えるより、経済や医療といった具体的な政策の話題の方が説得力があることも分かった。
動画広告よりも効果高く
選挙の際には各陣営が巨額の費用を投じて動画などの広告を作成する。16年と20年の米大統領選の広告の影響を分析した先行研究では、広告を見せた有権者で投票の意向が変化する程度は平均0.65ポイントだった。生成AIによる対話の方が有権者への影響力が高い可能性がある。
生成AIが提供した情報の正確さを検証すると、ハリス氏に対する支持を訴えたAIは9割の情報が正確だった。一方でトランプ氏支持を訴えたAIの正確さは8割程度だった。
大統領選以外でも同様の傾向があるか調査するため、24年に米マサチューセッツ州で実施された幻覚剤の使用の合法化を問う住民投票でも、投票が始まる前のタイミングで対話型AIを使って意向の変化を調べた。幻覚剤の合法化について強い反対の意向を持つ住民が、AIとの対話と説得を通じて、賛成の方向に平均で約20ポイント傾く結果が出た。

大統領選より高い変化率が示されたことについて、研究チームは「党派性のないテーマでは対話型AIの効果が大きくなる可能性がある」とみる。生成AIとの対話が有権者の態度や投票意向を変化させられることを実証したとしている。
事前学習の計算量に比例
一方、オックスフォード大などの研究チームは、米オープンAIの「Chat(チャット)GPT」など計19種類の対話型AIの説得力を分析した。英国の約7万7000人に医療や福祉、経済といった話題についてAIと2〜10往復の対話をしてもらった。
結果は、事前学習に必要な計算量が多い対話型AIはどの分野でも平均的に説得力が高い傾向があった。実際のやり取りを分析すると、対話型AIが提示する情報量が増えると説得力が増すが、誤った情報も増える傾向があったという。
米パデュー大学のリサ・アーガイル准教授は、サイエンス誌への寄稿で、対話型AIが政治の分野で悪用される懸念があると見解を示した。その上で「誤情報が含まれる情報に基づく意思決定は危険だ。研究者、政策立案者、市民が対策に取り組む必要がある」とコメントした。
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