
【ハノイ=広沢まゆみ】日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)は15日にベトナム・ハノイで開いたデジタル相会議で、人工知能(AI)分野の協力に関する初の共同声明に合意した。自国の言語や文化に対応するAIを重視するASEAN各国と歩調を合わせ、共同開発や人材育成などで協調する。
ASEAN各国は自国の利益や価値観に沿って開発・運用する「ソブリン(主権)AI」を重視する。各国にとって中国製AIには経済安全保障上の懸念が生じやすい。日本政府はASEANとの協力を深め、日本のAI関連企業の市場開拓を後押しする。
総務省は会議で情報通信全般の協力提案「デジタルワークプラン2026」を示し、AIを主要項目の一つとして取り上げた。ガバナンス、開発、人材育成、社会課題の解決を進めると明記した。
日ASEANデジタル相会議に先立ち、林芳正総務相はカンボジアのチア・バンデート郵便電気通信相と15日に会談した。公用語クメール語の大規模言語モデル(LLM)開発への協力などを盛り込んだ共同議事録に署名した。
カンボジアのAI開発は初期段階で、中国など懸念国の影響は限定的とされる。「日本のAI協力への関心は高い」(総務省幹部)として技術協力を決めた。
カンボジア政府は米グーグルが技術を外部に公開しているオープン型モデルをベースにクメール語のLLMを開発中で、クメール語のデータ不足が課題になっている。
日本政府は学習データの整備や計算資源の支援を想定する。日本企業がつくる日本製AIをベースとしたクメール語のLLM開発も視野に入れる。
林氏はベトナムのグエン・マイン・フン科学技術相とシンガポールのジョセフィン・テオ・デジタル開発情報相とも個別に会談した。
日本は23年に主要7カ国(G7)議長国として提案した「広島AIプロセス」のように、AIルールの多国間協調に強みを持つ。法整備や安全性評価機関の連携といった「信頼性」をアピールして支援を提案している。

東南アジアのAI市場は急拡大している。33年に172億ドル(3兆円弱)と24年の4倍近くに伸びるとの予測がある。
世界のAI関連企業も市場の開拓先として有力視している。米エヌビディアはベトナムに研究開発拠点とデータセンターを設立すると公表した。米グーグルはマレーシアに20億ドル(3000億円ほど)を投資する。
ASEANはAI関連技術が30年までに地域の国内総生産(GDP)を10〜18%押し上げ、効果額は最大で1兆ドル(150兆円ほど)になる可能性があると予測している。
東南アジアはAI分野の覇権争いの主戦場となっている。
カーネギー国際平和財団の調査によると東南アジアの地域特化LLMのうち、5つは中国アリババ集団のオープン型モデル「通義千問(Qwen、クウェン)」がベースになっていた。
オープン型をベースに微調整して開発するとコストを抑制できる。半面、歴史認識や民主主義への考え方で中国に都合の良い結果が出力される恐れがある。利用者が自覚しないまま、思考や認識をゆがめられかねない。
自国の言語、文化に根ざしたAI開発のニーズは強いとみて、日本政府は国際支援を強める。
【関連記事】
- ・日本政府とASEANが母国語AI開発、まずカンボジア 対中国念頭
- ・林芳正総務相、ベトナムでの日・ASEANデジタル相会合に出席へ
「日本経済新聞 経済・社会保障」のX(旧Twitter)アカウントをチェック 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。