
【ワシントン=高見浩輔】米労働省が5日発表した8月の雇用統計は、非農業部門の就業者数が前月から2万2000人増えた。伸びは市場予想の8万人程度を下回った。6月分は下方修正で減少に転じた。失業率も上昇し、雇用の減速は鮮明だ。米連邦準備理事会(FRB)への利下げ圧力が強まる。
6月は1万4000人の増加から1万3000人の減少に修正された。就業者が減少したのは新型コロナウイルス禍で混乱した2020年以来。それを除けば10年9月以来、およそ15年ぶりだ。
7月の伸びは7万3000人から7万9000人に修正された。2024年は月平均で16万人を超えており、勢いは鈍っている。

失業率は4.3%で、2021年10月以来の高水準となった。7月の4.2%から横ばいか、やや上昇するとの見方が多かった。平均時給は予想通り前月比で0.3%上昇した。
直後の金融市場では金融政策の先行きを反映する2年債利回りが低下(債券価格は上昇)した。16〜17日に予定する次回の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げは確実視されている。
前回の雇用統計では5〜6月の雇用者数の伸びが合計で約25万人下方修正され、「不正操作」と決めつけたトランプ米大統領が労働統計局長を解任する事態に発展した。
速報値が翌月以降に大きく修正されたのは、新型コロナウイルス禍後に調査の回収に時間がかかるようになった影響とみられる。

企業は関税政策などによる影響が見通せないなか、新規採用に慎重になっている。7月の求人件数は718万件とコロナ禍前の2018年のピークより5%ほど少ない。3日公表の地区連銀経済報告(ベージュブック)では退職者のポストを補充しない自然減で雇用を減らす企業の動きが目立った。
地域や職種による需給のミスマッチも広がる。セントルイス連銀はトランプ米政権が進める移民の制限により製造業や建設業、農業で労働力不足が続いていると指摘した。一方、フィラデルフィア連銀は幹部ポスト1つに275件の応募があったという非営利団体の声を紹介した。
FRBのパウエル議長は8月のジャクソンホール会議で求人と働き手が同時に細っている足元の状態を「特異なバランス」と呼び、ある時点で失業率の急上昇につながる懸念があると指摘した。
今後、雇用情勢の悪化がさらに鮮明になれば年内に想定する利下げ回数が増えたり、通常の倍となる0.5%の利下げ観測が高まったりする可能性もある。
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