ロシアによる侵略戦争が始まってから、3年半以上が経過したウクライナ。極限状況に置かれ続けている市民社会は今、どんな状況にあるのか。ウクライナを代表する若手ジャーナリストで非営利メディア「ウクライナー(Ukraїner)」に携わるユリヤ・ティモシェンコ氏(26)に聞いた。(編集委員・常盤伸)

前編 ロシアの侵略は深刻な脅威…「それでも民主主義を守り抜く」ウクライナの若手ジャーナリストの決意(この記事)
中編 政府批判を控える「自己検閲」やロシアのプロパガンダ…ウクライナのジャーナリストの戦い
後編 まだまだ続くロシアの脅威…ウクライナの人々がゼレンスキー政権とトランプ外交、そして日本への期待

 ※ティモシェンコ氏は大阪万博を訪問するために8月に来日。インタビューは8月13日、東京都内で行いました。

◆ロシアの侵略は、自由や民主主義への深刻な脅威

──戦時下のウクライナ社会はどのような状態にあるのでしょうか。  現在進行中の戦争は、ウクライナ社会に深刻な心理的・社会的影響を及ぼしています。多くの人々が疲れ切っています。戦争による心理的・精神的な打撃は、政治と切り離して考えることはできず、国全体に深刻な影響を及ぼしています。

東京新聞のインタビューに答えるジャーナリストのユリヤ・ティモシェンコ氏=東京都千代田区の東京新聞で(安江実撮影)

 多くの人が希望を失い、何かをあきらめざるを得ない状況に置かれているため、社会の内部は明らかに厳しい状態にあります。こうした現実は、政治的な意思決定や社会の安定にも大きく関わってくる問題です。 ──そのような状況で、ウクライナにおける民主主義や自由、市民社会的な価値観は進化しているのでしょうか。それとも、ある種の後退を余儀なくされているのでしょうか。  こうした価値観への最大の脅威は、明らかにロシアです。ロシアは私たちの民主主義を直接攻撃しています。民主主義を守りたいと願う人々が自ら戦闘に参加し、多くが命を落としています。これは、ロシアの侵略が自由や民主主義に対する深刻な脅威であることの証しです。  ロシアは武力による攻撃だけでなく、偽情報やプロパガンダ、心理操作を通じて、ウクライナの民主主義や自由を揺るがそうとしています。これらは民主的な価値観を弱体化させる試みであり、市民社会や制度の根幹に影響を与えています。

2022年、解放されたヘルソン州アレクサンドリーウカで撮影作業にあたる非営利メディア「ウクライナー」のチーム(「ウクライナー」提供)

 さらに、米国のトランプ政権による援助停止措置の影響で、多くの反汚職NGOや民主主義支援団体が資金不足や人材不足に直面しました。
このほか、戦時中の選挙を制限するウクライナ憲法の規定によって民主的なプロセスが一部停止していることも、ロシアの侵略がもたらした問題の一つです。  それでも市民は、こうした困難な状況の中で民主主義を守る努力を続けており、その姿勢は将来への希望につながっています。

◆抗議デモは、市民社会が機能し続けている象徴

──ゼレンスキー政権は8月に、二つの腐敗取り締まり機関の独立性を損なう「改革」を強行しようとしましたが、市民の抗議運動によって断念しました。この事態が意味するものは何でしょうか。  私自身も抗議集会に参加しました。戦時中で選挙が実施できない状況にもかかわらず、抗議行動が行われたことは、選挙以外にも民主主義を実践する方法があることを示す重要な例だと思います。  市民が自らの権利を行使し、民主的な価値観を守ろうとする姿勢は、ウクライナの民主主義の強さを証明しています。これは、戦争という極限状況の中でも、市民社会が機能し続けていることの象徴です。 ──政権の強行措置は重大な問題ですが、腐敗防止を巡る状況をどう評価しますか。  ウクライナでは近年、汚職撲滅に向けた取り組みが顕著です。私の世代の多くは、汚職に対して非常に厳しい姿勢を持っています。市民社会、NGO、ジャーナリストたちが連携し、改革を力強く推進しているのは心強いことです。

ウクライナの現状を語るユリヤ・ティモシェンコ氏=東京都千代田区の東京新聞で(安江実撮影)

 確かに、危機や戦争は人々の善悪を浮き彫りにする場面もありますが、それは同時に支え合いの価値や社会の結束力を示すチャンスでもあります。  こうした挑戦の中で、民主主義を守り抜こうとする市民の姿勢は非常に重要です。腐敗対策機関の設立は大きな前進でしたが、それを実際に機能させるために、市民社会やNGOが政府に対して継続的に働きかけ、改革を後押ししてきました。  ウクライナには、汚職事件を専門に扱う優れた調査報道ジャーナリストが多く存在し、法執行機関が動く前から汚職を告発しています。ただし、政権や政府の中には、まるで自分たちが民主主義国家にいることを忘れてしまったかのような人物がいるのも事実です。  こうした困難な状況の中で、社会は自発的に連帯し、軍への支援や退役軍人の社会統合に向けた取り組みが広がっています。この「助け合い」の文化は、社会の結束を維持し、戦時下の厳しい現実に対応するうえで欠かせないものです。  支援の文化や連帯感に象徴されるように、ウクライナの市民社会の強さは、未来への希望を支える重要な要素だと感じています。この団結力こそが、国家としての強さの根幹を成しているのではないでしょうか。 ▶中編 政府批判を控える「自己検閲」やロシアのプロパガンダ…ウクライナのジャーナリストの戦い に続く

 ユリヤ・ティモシェンコ 1999年生まれ。米国のニューヨーク大学アブダビ校を卒業後、ウクライナの民間企業を経て「ウクライナー」に参加。YouTube番組でのインタビューなどが好評を博している。2025年5月、ウクライナの優れたジャーナリストに与えられる「ジャーナリズムの名誉賞」を、「ベストインタビュアー賞」と若手に与えられる「ジャーナリズムの希望賞」の2部門で受賞した。ウクライナのユリヤ・ティモシェンコ元首相とは同姓同名の別人。

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