2024年の開業前に試運転する北陸新幹線(福井市)

2025年(令和7年)のいま、具体的に計画が進行している新幹線は前回取り上げたリニア中央新幹線のほかに、整備新幹線の仲間となるものが3つ存在する。北から北海道新幹線の新函館北斗駅(北海道北斗市)と札幌駅(札幌市)との間、北陸新幹線の敦賀駅(福井県敦賀市)と大阪市内との間、西九州新幹線の福岡市と武雄温泉駅(佐賀県武雄市)との間だ。今回は整備新幹線3つを紹介したい。

青函トンネルを通過する北海道新幹線=JR北海道提供

3つの整備新幹線については、25年2月5日公開の本連載「新幹線、次の開業はいつ? 工事や沿線の調整が難航」でも触れている。これらのうち、北海道新幹線、西九州新幹線の両新幹線の動向に大きな変化はない。

北海道新幹線については前回の連載で開業時期は未定と記したが、その後開業予定時期が明らかになった。3月13日に開催された第14回北海道新幹線(新函館北斗―札幌間)の整備に関する有識者会議で、現時点では38年(令和20年)度末、つまり39年(令和21年)3月ごろの開業が見込まれると報告されている。

一方で西九州新幹線にはその後の進展はない。計画を立てられない状況はいまも続いている。

在来線特急「リレーかもめ」から西九州新幹線へ対面乗り換えする乗客(2025年9月11日、JR武雄温泉駅)

北陸新幹線についてはいくつかの動きが見られた。とは言ってもルートが確定して着工になったのではない。国土交通省、そして建設を担当する独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)から福井県小浜市を通り、京都市内で南北案、桂川案と2つの行程をたどるルート案が24年(令和6年)12月に出され、あとは沿線関係者の合意待ちとなっていた。

しかし、25年6月6日に開かれた京都市議会ではどちらの案にも反対するとの決議案が賛成多数で可決され、国や鉄道・運輸機構は修正案を提出するかどうかという段階となっている。

国や鉄道・運輸機構が当初示した案は、南北案、桂川案とも京都市内の中心部以外ではどちらも同じだ。基本的には敦賀駅から西南西に進んでJR西日本小浜線の東小浜駅付近に設けられる駅を通り、ここから南西、次いで南に進み、京都市内の西側の地下に乗り入れる。

北陸新幹線敦賀駅から新大阪方面への高架はいつ完成するのか? 当面、在来線を走る特急との乗り換えに(2025年9月3日)

筆者の見立てでは、南北案は京都市右京区鳴滝音戸山町(なるたきおんどやまちょう)付近で桂川案と分かれ、国道162号の地下付近を南南東に進む。三条通と交差するあたりで今度はこの通りを東に、そして堀川通と交差するあたりで南に進み、九条通と交差する付近に京都駅が設けられる。

さらに南下を続けた後、久世橋通と交差するあたりで東に向きを変え、桂川をくぐった後に南下し、桂川案に合流していく。

桂川案は南北案と分かれた後も南下を続け、JR西日本東海道線の桂川駅付近に京都市内の駅が設けられる。その後、南東に進んで南北案と合流する計画だ。

北陸新幹線はその後、南東から南南西、南西、西と向きを変えながら、東海道新幹線や山陽新幹線、東海道線、地下鉄御堂筋線の各列車が発着する新大阪駅に乗り入れる。

この間、京都府京田辺市にあるJR西日本片町線の松井山手駅付近を通り、駅が開設されるという。大多数の区間は山岳トンネルまたは地下トンネルで、トンネルのないところを走っている場所は敦賀駅や東小浜駅の周辺、京都市南部のごく一部に過ぎない。

京都市議会は、京都市内を地下約40メートル以深の大深度地下を通る北陸新幹線の建設に反対する理由として次のような項目を挙げている。トンネルとほぼ同じところを流れる地下水への影響、トンネル掘削で生じる大量の残土にヒ素を含む可能性があること、国や鉄道・運輸機構による住民への情報非開示、歴史的・文化的建造物への影響、採算性だ。

一方で国や鉄道・運輸機構も対策を講じてきた。トンネルは防水構造で、地下水への影響はほぼないか、あってもわずかだという。残土も適切な処理を行うとし、情報開示も筆者が調べられる程度には明らかにされている。ただし、京都ならではの歴史的・文化的建造物への影響は何とも言えない。

そして、建設費の一部を負担する京都市にとって、桂川案では約4兆9000億円、南北案で約5兆2000億円と見込まれる敦賀駅―新大阪駅間の事業費には納得がいかないのも仕方がないだろう。

南北案、桂川案とも修正が必要だと筆者は考える。京都市内に影響を及ぼさないよう、京都府向日(むこう)市にある東海道線の向日町駅であるとか京都府長岡京市にある東海道線の長岡京駅付近と、現在構想されているルートのさらに西側を通るルートとするほかなさそうだ。

京都市の中心からやや遠いところを北陸新幹線が通るのは確かに不便だが、建設費を負担する沿線自治体の反対とあっては仕方がない。今後歩み寄りが見られるかもしれないが、環境負荷のより少ない工法の開発などが実現しないと現段階では無理だろう。

北陸新幹線の終点は新大阪駅の予定だが、開業までのハードルは高い(2024年9月11日)

長きにわたってご覧いただいた本連載も今回が最終回となった。21世紀の鉄道がこれからも人々に多くの幸福を導くものであることを望みたい。読者の皆様には改めて感謝申し上げます。(終わり)

梅原淳(うめはら・じゅん)
1965年(昭和40年)生まれ。大学卒業後、三井銀行(現三井住友銀行)に入行、交友社月刊「鉄道ファン」編集部などを経て2000年に鉄道ジャーナリストとして活動を開始する。「JR貨物の魅力を探る本」(河出書房新社)、「新幹線を運行する技術」(SBクリエイティブ)、「JRは生き残れるのか」(洋泉社)など著書多数。雑誌やWeb媒体への寄稿、テレビ・ラジオ・新聞等で解説する。NHKラジオ第1「子ども科学電話相談」では鉄道部門の回答者も務める。

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