阿武隈川上流にある遊水地の予定地に設けられた試験圃場(ほじょう)で、初めての稲刈りが25日にあった。近くの田んぼに比べて大差ない収量が期待できるものの、稲が育ちすぎて大半が倒れてしまうという意外な結果になった。

 試験圃場は福島県矢吹町の阿武隈川右岸にある。本流と支流では2019年秋の台風で大きな被害が出た。今後の被害を防ぐため、鏡石町と矢吹町、玉川村には、あふれた水を一時的にためる遊水地を設けることになった。

 しかし、遊水地の予定地には農地も多数あることから、国土交通省は、川とは堤防で隔てた圃場を新設。ここで営農を継続できるかどうか確かめるため、今春から実験を始めていた。

 試験圃場は約42アールあり、玉川村の稲作農家仁井田健さん(63)が自分の水田と全く同じ条件でコシヒカリを育てた。

 農業・食品産業技術総合研究機構東北農業研究センターによると、5月半ばの田植えから1カ月ほどで、試験圃場の方が明らかに生育が進み、最終的な高さは15センチほど上回った。

 これにより、9月上旬ごろから倒伏する稲が相次いだ。ただし、実の入り具合は水田の稲と遜色はなさそうだという。

 成長した原因としては、①試験圃場には水田から客土したことにより肥料過多になったこと②周辺の土地より掘り下げたことで一種の盆地となり、熱がこもりやすくなったこと――が考えられる。東北農業研究センター水田輪作グループの国立(こくりゅう)卓生グループ長は「最初の肥料を抑えたり、倒伏に強い(福島県オリジナル品種の)『天のつぶ』に変えたりすることで克服できるだろう」と話す。

 台風では自宅の玄関先まで水が迫ったという仁井田さんは「水田の移転は大変だが、あんな大変な思いは二度としたくない。今年は肥料のやり方に悩んだが、来年も作付けに協力したい」と話していた。

 国交省と農研機構は、収穫量や食味を今後詳しく分析。検査で問題なければ、3町村の学校給食用に提供するという。

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