熱中症対策としてサングラスやネックリングを身につけ、飲み物を手にする警察官=名古屋市の愛知県警本部で2024年7月10日午前9時59分、田中理知撮影
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 ファッションアイテムの一つでもあるサングラスが、目の健康を守る「健康グッズ」として注目されている。近年、屋外で働く人の着用を認める動きが広がり、交流サイト(SNS)でも「目の疲れが緩和される」などと、話題になっている。

 見た目のイメージからか、これまで日本では夏でもあまり一般的とは言い難かったサングラス。10月も紫外線には注意が必要とされる中で、これからは男女問わず使用が広がる日傘のように、外出時の「マストアイテム」となるのだろうか。

日本の「作法」となじみにくい?

 「眼鏡市場」を展開する眼鏡チェーン「メガネトップ」(静岡市)や、メガネの利用状況などを調査した「眼鏡DB」(眼鏡光学出版)のデータによると、2024年夏に4万人以上を対象にしたインターネット調査で、サングラスの所有率は12・1%にとどまった。6~8割が所有しているとされる欧米に比べると、日本ではサングラスがまだ浸透していないという。

サングラスを付けたり日傘を差したりして歩く人たち=京都府宇治市で2025年6月18日午後4時21分、前田梨里子撮影
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 なぜ日本ではサングラスが普及してこなかったのだろうか。

 同志社大の竹原卓真教授(認知心理学)の話では、日本人を対象にした調査で顔の印象を点数評価したところ、サングラスをかけると素顔に比べて信頼度が半分近くに下がったという。

 「(目の見える人の)コミュニケーションで、視覚は非常に重要な情報源です。目を合わせてくれない相手に『関心を持たれていない』と感じたり、逆に関わりたくない人の方を見ないようにしたりしますよね。コミュニケーションで重要な情報である視線が遮断されると、自分が見られているのかもしれないという不安が湧き、信頼度の低下につながります」

 相手に失礼に思われないようにしたり、他の人と同調するよう求められたりしがちな日本のコミュニケーションの作法とサングラスは、元々なじみにくいのではないかと竹原教授はみる。

サングラス姿で日米首脳による共同記者会見に臨むバイデン米大統領(当時)=米ホワイトハウスで2024年4月10日、秋山信一撮影
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進む「怖い」イメージの払拭

 しかしここ数年、暑さ対策や紫外線対策が求められる中、仕事中のサングラス着用を解禁する動きが屋外で活動する業界を中心に急速に広がっている。

 警察庁は24年4月に各都道府県警に暑さ対策を推進する通達を出し、パトロール中の警察官のサングラス着用が広がった。JRなど鉄道各社や、配送業などでも着用の取り組みが進んでいる。

 SNSでも最近、サングラスの効果を伝える投稿がたびたび話題になっている。

コーンパイプをくわえたマッカーサー。第二次世界大戦中、西南太平洋上の船舶上で
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 <夏場、外出ると疲れやすい、頭痛がするって人、サングラスをするとぐっと改善する可能性がありますよ>

 <おしゃれとかじゃなくて、日差しがキツすぎて目が疲れるから、サングラスは要る>

 メガネトップでは25年7~8月、カラーレンズの売り上げが前年同期比で約1・2倍に拡大。メガネやサングラスのメーカー「オンデーズ」(東京都品川区)も6~8月、サングラスの売り上げが前年同期比の1・3倍に増加したといい、需要の高まりが市場でも表れ始めている。

 竹原教授も、薄い色のレンズなど多様なデザインのサングラスが登場し、従来の濃いサングラスに対する「怖い」といったイメージが払拭(ふっしょく)されてきているとみる。

紫外線のダメージ蓄積で白内障リスク

 紫外線は実際にどのような健康リスクがあるのだろうか。

 メガネ製作の監修も手掛ける金沢医科大眼科学講座の佐々木洋・主任教授によると、数時間にわたり強い紫外線を浴び続けると、肌と同様に目も「日焼け」し、角膜で炎症が起きて充血することがある。より強い紫外線を浴びる環境の場合、目に痛みが出る可能性もあるという。

 紫外線は沖縄など緯度が低い地域がより強く、標高も1000メートル上がれば10%近く紫外線量が増加する。

 「紫外線量の多い場所を知り、対策をとることが大切です。紫外線の影響による充血は、一晩寝れば治ることが多いですが、紫外線を浴び続けることは慢性疾患にもつながります」

 具体的には、白目にシミのような隆起ができる「瞼裂斑(けんれつはん)」や、白目の一部が黒目へ伸びてくる「翼状片(よくじょうへん)」の発症リスクが高まるという。

 瞼裂斑はドライアイや眼精疲労、目が傷つきやすくなるといったことの原因になり、放置すれば翼状片になる可能性もある。そして、翼状片が進行すると、乱視が悪化したり、手術をしなければ失明したりするリスクがあるという。

 紫外線によるダメージが蓄積すると、将来的に白内障になりやすくなることも分かっている。

「何歳からということはない」

瞳孔が開かない適度な濃さのサングラス=金沢医科大学眼科学講座提供
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 紫外線から目を守るために、サングラスは有効だ。だが、注意点もある。

 佐々木教授によると、UVカット機能があれば、サングラスも眼鏡も効果は変わらない。ただし、色の濃いサングラスをかけると瞳孔が開き、逆に紫外線が水晶体に届きやすくなってしまうという。

 顔とサングラスに隙間があるとそこから紫外線が目に入ってしまうため、ゴーグルタイプにするなど、顔の形に合い、隙間(すきま)の少ないサングラスを選ぶことが望ましい。

 「外から見て目が分かるくらいの濃さのサングラスなら、瞳孔がそこまで開くことはないと思います。黒目をカバーできれば紫外線によるリスクから目を守れるので、UVカットのコンタクトレンズを付けることが最も有効です」と話す。

サングラスをかけてビーチで楽しむ母と娘(写真はイメージ)=ゲッティ
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 また、紫外線には幼少期から対策を講じることが望ましいという。

 紫外線量の多い沖縄で実施した疫学調査では、幼少期からの住人の方が、成人してから移住してきた人より、翼状片や白内障になるリスクが5倍以上高かったという。「何歳からということはなく、できる時から対策を続けていくことが大切です」

 紫外線には3月から10月ごろまで注意が必要だとされ、まだまだ対策が必要なシーズンが続く。時間帯では朝8時~夕方4時ごろまで、外出時のサングラス着用が推奨されるという。

 佐々木教授は「学校として紫外線対策を推進したり、大人が積極的にサングラスを着用することで子どもにも促したりして、健康のためにぜひサングラスを活用してほしい」と呼びかける。【待鳥航志】

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