明治、大正、昭和、平成、令和――。五つの時代を生き抜いている明治生まれの日本人は、わずか4人。

 ドキュメント20min.「最後の明治人」(NHK、19日夜11時45分)は、その一人、日本最高齢114歳の賀川(かがわ)滋子さんにカメラを向けた。

 奈良県大和郡山市の賀川さんは、1911(明治44)年生まれ。

 賀川さんは、連続テレビ小説「虎に翼」でモデルになった三淵嘉子さん(1914~84)や、「あんぱん」のやなせたかしさん(1913~2013)よりも、早く生まれている。

 番組づくりのきっかけは何だったのか。

 プロデューサーを務めた斉藤勇城さん(44)は、2020年から「明治生まれの人に話を聞く番組を作りたい」と構想していた。

 斉藤さん自身の祖母も明治生まれだった。

 「戦争の話を聞くことが怖くて避けていたら、亡くなってしまった。それが心にひっかかっていた」

 歴史番組を作るようになって、明治を生きた人の話の貴重さを痛感した。

 だが、コロナ禍の影響で取材はできず。明治生まれの存命の人も、この5年で数えるほどしかいなくなり、「今しかない」と思ったという。

 ディレクターの小林涼太さん(33)とともに動き出した。

 賀川さんは、医師として地域を支え、今は大谷翔平選手の新聞記事を読むのが日課だ。

 初めて洋食を食べた時の違和感、人が空を飛んだと胸を躍らせた飛行機の思い出、戦争の恐怖……。人生を聞くと、女性の生活史そのものになったという。

 日本で今、最も長い時間を知る賀川さんの人生は朝ドラにもできそうなほど波瀾(はらん)万丈だ。だが、取材した小林さんは、賀川さんの淡々とした語り口から「番組も、過度にドラマチックに人生を描くのは誠実じゃない」と、静かに語る深い言葉を記録することに重きを置いた。

 斬新な切り口を重視し、若手中心で作られるドキュメント20min.。今回は口で打楽器のように奏でるヒューマンビートボクサー・SHOW―GOさんの音楽が、時を刻む時計のように番組を彩っていく。

 小林さんは「時代背景を知りながら賀川さんの話に没頭できる番組にしたかった。114年間生きている人生哲学を感じてもらえたら」と話す。

 斉藤さんはこう語った。

 「明治生まれの人は、戦争の前の平和を知っていて、平和が失われていくことも実感している。戦前を生きた視点から描くことで現代にも響くものがあると思っています」

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