認知症予防には性的刺激を求めることも重要だ Master of Stocks-shutterstock

<脳は使わないと劣化していき、認知症などを引き起こしかねない。脳の老化を防ぐには「刺激」が重要だ>

※本記事は中編です。
前編:AIとの会話も有効? 高齢者医療専門家が提唱する、脳寿命を延ばし認知症を予防する習慣とは
後編:11月7日にアップロードします。

7. ためらわず補聴器を使う

どうも言葉のやりとりは耳を通じて行うほうがよいようで、難聴は認知症の危険因子として知られるようになっている。

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20年に世界で最も権威ある医学誌ランセットに、改善することで認知症の予防が可能になる効果が期待できるという12の危険因子が発表された。その1位が難聴なのだ。難聴がなくなれば認知症リスクが8%も減らせるという。

難聴が「予防可能な」危険因子とされるのは、対策があるから。つまり、補聴器を使うことだ。


50代くらいで耳が聞こえにくくなった場合、補聴器に抵抗があるかもしれない。しかし、そうしているうちに、会話が煩わしくなり、脳の老化は進んでしまう。

補聴器を不快と思う原因になっていたハウリングや雑音も今ではかなり改善しているし、AIを利用して人の声と音楽だけを拾う機種もある。

耳の聞こえが悪くなったらためらわずに補聴器を使うことは、脳寿命を確実に延ばしてくれる。

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8. なるべく新しいことを体験する

さて、前頭葉を鍛える方法として、アウトプットのほかに、もう1つ考えられるのが新しい体験だ。

通常の言語情報は脳の側頭葉という部分で、数理的なことや図形のようなものは頭頂葉で処理される。知能テストは一般的に側頭葉と頭頂葉の機能を測るもので、年を取っても意外に衰えないことが分かっている(記憶力は少し衰えるが)。


前頭葉は、引っ越しや転職、初めて行く場所への旅行など、新たなシチュエーションに対応するための脳と考えられる。これがほかの動物よりはるかに大きいので、人類が地上の支配者になったという説が強い。

ということは、新しい体験をたくさんするほど前頭葉が鍛えられることになる。なるべく新しい場に顔を出し、さまざまなやったことのない体験をすることで前頭葉の老化が遅れると考えてほしい。

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9. 想定外をむしろ喜ぶ

前頭葉は、これまでしたことのない体験や想定外なことが起こったときに対応する脳と考えられるが、だとすると老化してその機能が衰えてくると、前頭葉をなるべく使わないようにしようとすることになる。つまり、なるべく新しい体験を避けるようになるとか、想定外が起こらない場を好むようになってしまう。

行きつけの店にしか行かないとか、いつも同じような著者の本を読む、服装もいつも似たようなものを着るなどというふうになってきたとすれば、これは前頭葉の老化のサインと言っていい。


もし思い当たる節があれば、早速態度を改めないとどんどん前頭葉が老化し、意欲のない高齢者になってしまう。想定外をむしろ喜び、行きつけでない店に行くとか、普段と違うジャンルの本を読むなど想定外を自らつくり出すような生活パターンに日常生活から変えていってほしい。

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10. 毎日を実験と思って生活する

想定外を意識的に引き起こすために有効なのは、毎日を実験と思って生活することだ。

例えば、長い行列のできているラーメン屋を見つけたとき、実験と思って並んでみる。1時間かけてやっと食べられたのに、自分の口に合わないこともあるだろう。そんな時は実験が失敗したのだと思うようにするのだ。

日本人の場合、学校教育であまり失敗するような実験はしない(理系の大学は別かもしれないが)。しかし、本当の実験というのは、失敗したら新たな実験を組み直し、成功するまで続けるものだ。


新たな服装にトライする、新たな趣味にトライする。うまくいかなくても、次に新しい実験をして、最終的に成功すればいい。こういう体験を重ねていると、自然に前頭葉は鍛えられるはずだ。

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11. 強い刺激を求める

さて年を取るほど、地味なものを好むとか、控えめにするとかいう考えも日本では根強い気がする。

ところが脳の摂理としては、年を取って脳が老化するほど、弱い刺激ではあまり反応しなくなるものだ。若い頃なら箸が転んでもおかしいから、ろくに芸のないひな壇芸人の日常会話でも笑えるが、年を取ってくるとそんなものでは笑えなくなるのはそのためだ。


脳に刺激を与え続けることで脳の老化を防ぎたいなら、あえて強い刺激を与えないといけない。テレビの芸で笑えないならDVDを借りたり、ネットフリックスなどを利用してレベルの高い芸を求める。本来なら寄席に行ったり、なんばのグランド花月で公演を見るのはもっといい。

旅行に行くにしても、エジプトに初めて行くなど強い刺激になるほうがいい。グルメでもどんどんレベルを上げるほうが賢明だ。

強い刺激を求め続けていると脳の若さが保たれると思ってほしい。

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12. むしろコレステロールを積極的に摂取する

栄養面で脳の老化を遅らせることもできるだろう。脳の働きをよくするには糖分は積極的に摂ったほうがいいし、ダイエットなど考えないほうがいい。朝食抜きの子供の成績が悪いことはよく知られているし、朝食サービスを提供する企業が増えているのはそのためだ。

それ以上に大切なのは、コレステロールだ。コレステロールは幸せホルモンといわれるセロトニンを脳に運ぶ働きがあるとされ、神経を包む鞘の部分の材料だ。それ以上に男性ホルモンの材料でもある。これが十分に足りていると意欲が保たれるが、足りないと意欲低下が生じ、それが脳や身体の老化につながってしまう。


心疾患の少ない日本ではコレステロールはしっかり摂ったほうがいいし、日本人の中高年のかなりの部分がそれが足りていないと考えられることも知ってほしい。

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13. 性的なことを忌避しない

脳の老化予防に大切なのは、繰り返しになるが意欲や好奇心を失わないことだ。脳の摂理から考えると知的好奇心と性的好奇心は近いものであり、多くの著名学者がエロチックなものが大好きだったというエピソードは多い。

ということで、年がいもなくなどと言わず、性的な刺激はむしろ求めるようにしたい。インターネットの世界はその手の刺激にあふれているのだから。

ついでに言うと、エロチックな画像や文学などは男性ホルモンの分泌を増やしてくれる。それによって意欲が保たれ、脳や身体の老化を遅らせてくれる。また男性ホルモンの低下による筋肉の減少も防いでくれる。とにかく、性的なものを忌避しないことだ。


実は、男性ホルモンが影響するのは男性だけではない。女性は閉経後にむしろ男性ホルモンが増えることが分かっているし、実際、年を取ってから意欲的になる女性が多い。また、恋をするなど男性ホルモンが増える体験をすると若返るのも事実だ。

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※本記事は中編です。
前編:AIとの会話も有効? 高齢者医療専門家が提唱する、脳寿命を延ばし認知症を予防する習慣とは
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和田秀樹(精神科医)
HIDEKI WADA
東京大学医学部卒。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、高齢者専門の総合病院である浴風会病院の精神科を経て現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。著書に『80歳の壁』『不老脳』などがある。

Photograph by YUMIKO TAKAGIーNEWSWEEK JAPAN


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