クモの巣自体は決して珍しいものではないが nomad-photo.eu-shutterstock
<ギリシャとアルバニアの国境にある洞窟で見つかったクモの巣は、極限状態下での動物の生態研究に役立つかもしれない>
クモ恐怖症の方は、洞窟探検に出かけるなら気を付けた方がよさそうだ。アルバニアとギリシャの国境にまたがる真っ暗な洞窟の奥深くで、史上最大規模と見られるクモの巣が発見された。
【写真・動画】世界最大のクモの巣
洞窟の壁に沿って約106平方メートルにもわたって広がっているこの巣は、一枚の絹のようなシート状ではなく、無数の漏斗状の巣がつながり合った巨大なパッチワークのようになっており、その中では11万1000匹以上のクモがひしめいているという。
驚くべきことに、通常は単独で生活するクモたちが、この中では協力関係を築いている。
このクモの巣が見つかった場所は「硫黄の洞窟」と呼ばれている。地下水中の硫化水素が酸化することで生じた硫酸により、長い年月をかけて形作られた洞窟だ。
天井が低く不気味なこの洞窟に光は届かない。硫黄に囲まれた過酷な環境の中では、強靭な生命力を持たない生物は生き延びることができない。
巣の解析によって、この不気味なクモの巣で暮らしているのはイエタナグモとプネリゴネ・ヴァガンス(ハナグモ科に属するクモ)の2種であることが判明した。いずれも漏斗状の巣を作ることで知られている。
DNA鑑定により、これら2種がこの洞窟のコロニーを支配し、この地下空間で密集して生きるクモの世界を形作っている。
このような大規模な協調行動は、通常単独で生活するこれらのクモにおいては、ほとんど前例がない。研究者たちは、この発見が極限環境におけるクモの行動に関する理解を根底から覆す可能性があるとしている。
有毒物質あふれる洞窟で何を食べている?
このクモたちの生存は、きわめて繊細な地下の生態系に依拠している。彼らの獲物は刺さないユスリカだ。
そのユスリカは洞窟の壁を覆う白い粘膜状の微生物、硫黄酸化細菌が形成するバイオフィルムを食べている。
硫黄を多く含む地下水の小川は、自然の泉を水源としながら洞窟内を蛇行して流れ、硫化水素を放出している。ほとんどの生命にとって命に係わるほど危険な硫化水素のガスが、バクテリアからユスリカ、さらにクモへとつながる食物連鎖を支えている。
クモ恐怖症の人にとっては、真っ暗な場所で11万1000匹ものクモが協力して動いているのは、まるでホラー映画の一場面のように感じられるかもしれない。
しかし、科学者にとっては、地球上でも特に過酷な環境の中で、生命がどのように適応し、繁栄しうるかを示す貴重なサンプルなのだ。
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