
ほら貝を吹くことは古代より伝わるインドの伝統 ELAKSHI CREATIVE BUSINESS-shutterstock
<なんと、ほら貝を吹くだけ。インドで行われた研究が、中程度のいびき症状を持つ人々の症状を軽減する可能性があることが分かった>
ほら貝を吹くという古代からの習慣が、ある睡眠障害の危険な症状を軽減する可能性があることが分かった。
その睡眠障害は、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA:Obstructive Sleep Apnea)。このOSAに対する、薬や治療機器に代わる手段となり得る。
中程度のいびき症状を持つ人がこの方法――「シャンカ吹き」とも呼ばれる――を実践すると、日中に目がさえるようになり、夜間の呼吸停止が少なくなることが、小規模ながら有望な臨床試験によって明らかになった。
「シャンカ吹きはインド文化の伝統で、宗教的儀式やヨガでよく行われる。吉兆を象徴し、環境を浄化すると信じられている」と、論文著者で、インドのエターナル・ハート・ケアセンター兼研究所のクリシュナ・K・シャルマ医師は本誌に語った。
この習慣は紀元前1000年頃に遡るとされる。使われるのは、大型で螺旋状のほら貝だ。
「ヨガの文献でも、肺や喉を強化する呼吸法として記載されている」とシャルマは言う。
睡眠時無呼吸症候群の一種であるOSAは、一般的な睡眠障害で、アメリカでは約3000万人が罹患している。気道がふさがれ、夜間に呼吸が繰り返し停止するのが特徴だ。
この疾患は大きないびき、断続的な睡眠、日中の眠気を引き起こし、高血圧や心疾患、脳卒中のリスクも高める。
「ほら貝を吹く」とは驚くべき対処法に思えるが、OSAを抱える人々にとって、シンプルで快適、低コストな方法となる可能性がある。
伝統的なヨガ呼吸法を正式な臨床試験で検証
「私たちの臨床現場では、ほら貝を定期的に吹くようになってから、睡眠の質が改善し、疲労感が軽減したと報告する患者が複数いた。なかには、治療機器(として一般的なCPAP:シーパップ)を使わなくても睡眠検査の結果が改善した例もあった」とシャルマは説明する。
「こうした経験から、この伝統的なヨガ呼吸法を正式な臨床試験で検証しようと考えた」
この研究は、19歳から65歳の中等度OSA患者30人を対象に、2022年5月から2024年1月にかけて実施された。ポリソムノグラフィーという精密検査によって夜間の睡眠状態を記録・観察し、その後に睡眠の質や日中の眠気について質問が行われた。
参加者は無作為に2つのグループに分けられ、16人がほら貝を吹く訓練を受け、14人が深呼吸法を練習した。
両グループとも、自宅での実践を始める前に、クリニックで研究チームのメンバーから直接指導を受けた。ほら貝を吹くグループには、ヨガで使われる伝統的なシャンカが提供された。
参加者には、週に5日、1回あたり15分間以上、自宅で実践するよう推奨された。6カ月後に再検査が行われた。
深呼吸を行ったグループと比較して、シャンカ吹きを実践した人々は、日中の眠気が34%少なく、よりよく眠れたと報告しており、ポリソムノグラフィー検査では、1時間あたりの無呼吸(睡眠中の呼吸停止)が平均で4〜5回少なかった。また、夜間の血中酸素濃度も高かった。
シャンカ吹きにより、上気道の筋肉が鍛えられる
研究者によれば、ほら貝を吹いたグループの成果は、深呼吸を行った対照群よりも有意に優れていたという。
「シャンカ吹きは、深い吸気と、口をすぼめた状態での力強い呼気を伴い、それが振動と抵抗を生み出す。その結果、軟口蓋(なんこうがい)や喉といった上気道の筋肉が鍛えられ、睡眠中に気道を開いたまま保つのに役立つと考えられる。また、ほら貝の独特な螺旋構造が、音響的・構造的に刺激を強めているかもしれない」とシャルマは説明する。
「CPAPは標準治療だが、快適ではなく、長期使用が難しいと苦労している人は多い。シャンカ吹きが取って代わるわけではないが、補助的あるいは代替的な手段にはなり得る。特に軽度から中等度のOSA患者や、CPAPが手に入らない、または高額で利用が難しい環境において有用だ」
睡眠時無呼吸症候群は、減量、禁煙、飲酒量の減少といった生活習慣の改善によって治療されることもあるが、多くの人はCPAPの使用が必要だ。
CPAPによる治療では、気道を広げるため、寝ている間に口や鼻に装着したマスクに空気をやさしく送り込む機械が使われる。効果は高いものの、不快と感じたり、継続して使うのに苦労したりする人もいる。
「ほら貝の持つ呼気抵抗と振動の効果は、気道筋トレーニング用の医療機器で再現できる可能性がある。これは今後の研究対象だ」とシャルマは語った。
ただし――と、彼は言う。
「ほら貝はすでに広く入手可能だし、安全だ」
「ほら貝は(地域によっては)すでに広く入手可能だし、安全だ。やる気があれば、指導のもとでいつでも始められる。今後の研究によってその有効性が裏付けられれば、CPAPが使えない地域や医療資源が不足している地域において、睡眠時無呼吸症候群のケアを支援する低コストな手段になるだろう」
研究チームはすでに、インド国内での大規模な臨床試験に向けた倫理審査の承認を得ている。今後の研究では、シャンカ吹きが気道筋の緊張、酸素供給、睡眠構造に対する長期的な影響を評価し、CPAPとの直接比較も行う予定だ。
ギリシャの欧州呼吸器学会で睡眠呼吸障害部門の責任者を務めるソフィア・スキザ教授はこの研究を評価し、「シャンカ吹きという古代の習慣が、筋肉トレーニングを通じて、一部の患者へのOSA治療法となる可能性を示す興味深い研究だ」と声明で述べた。
「より大規模な研究によって、この介入法に関する多くのエビデンスが得られれば、一部のOSA患者にとって、治療選択肢として、あるいは他の治療との併用手段として有益となる可能性がある」
【参考文献】
Sharma, K. K., Gupta, R., Choyal, T., Sharma, K. K., Sharma, D., & Sharma, T. (2025). Efficacy of blowing shankh on moderate sleep apnea: A randomised control trial. ERJ Open Research. https://doi.org/10.1183/23120541.00258-2025
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