観光庁が昨年5月30日に報道発表した資料が手元にある。「特別な体験の提供等によるインバウンド消費の拡大・質向上推進事業」の二次公募の採択事業を決定した、というペーパーだ。

 インバウンド消費のさらなる拡大・質の向上を図るため、地方自治体や民間事業者が行う体験コンテンツなどを国が支援しようという取り組みだ。

 採択されたのは244件。そのリストには、日本テレビ放送網、ソニーグループ、三菱地所、JTB、石川県、仙台市、横須賀市など、そうそうたる企業名や自治体名が並んでいる。

 そこに「加瀬漁業」なる、ほぼ無名の事業者が出したアイデアが食い込んだ。北海道羅臼町で昆布漁を営み、羅臼昆布を生産する加瀬基敏さん(46)、里紗さん(44)夫妻が挑戦しようとする事業だった。

 その後、2人は国からの補助を受け、築40年の2階建て昆布番屋(作業小屋)を改築、2階部分を宿泊施設にした。そして今年2月、「KOBUSTAY(こぶすてい)」の名称で開業。宿泊者は、羅臼昆布の生産現場で特別な体験ができ、瞬く間に世界中から料理人が集う宿となった。

 発案は、札幌市からの移住者で青山学院大国際政治経済学部卒の里紗さん。基敏さんは当初は乗り気ではなかったが、漁に出た根室海峡で「羅臼に来てくれた里紗を今度は自分が応援する番だ」と腹をくくり、事業が採択されれば全面協力する意思を固めた。

 私の私有スマホの電話帳に「羅臼のいい男」と15年以上前に登録した人物がいる。基敏さんだ。里紗さんとは当時まだ交際中。きっとこんな夫妻になると予感していたのかもしれない。

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