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<「食物繊維」にはエビデンスがなかった? 英研究チームが発表した初の包括ガイドライン、そして「サイリウム」について>
慢性的な便秘に悩む人が「食物繊維をもっと摂りなさい」と助言されることが多い。しかし、その指導は長年にわたって曖昧かつ一貫性に欠けていた。
こうした状況を受けて、便秘に役立つ食品やサプリメントに関する科学的根拠に基づいた初の包括的なガイドラインが発表された。
イギリスのキングス・カレッジ・ロンドン(KCL)の研究チームは管理栄養士、消化器専門医、生理学者、家庭医(総合診療医)の連携により、75件以上の臨床試験を分析し、59の食事に関する推奨事項と12の研究課題をまとめた。
その結果、食物繊維を多く含むとされる「高食物繊維食品」や、お通じの効果が謳われるセンナを含む一部のサプリメントなど、これまで広く推奨されてきた方法の多くに、明確なエビデンスが乏しいことが判明した。
本論文の筆頭著者であるキングス・カレッジ・ロンドンの栄養科学教室のイリニ・ディミディ准教授は「この分野の研究は、驚くほど少ないものでした」と本誌に語る。
慢性便秘に特化した初のガイドライン
「慢性便秘症」とは、排便が困難または頻度が少ないなどの状態を指し、アメリカ人成人の9〜20%に影響を及ぼしている。
「慢性便秘症の食事管理に特化した、包括的なガイドラインはこれまで存在しませんでした」」とディミディ准教授が述べるように、これまでの医療ガイドラインは投薬による治療に偏っており、食事に関する指針は一貫性を欠いていたという。
今回発表されたのは、同疾患に対して初めて策定された科学的根拠に基づく食事ガイドラインとなる。
専門家が勧める食事戦略
新たなガイドラインでは、科学的根拠に裏打ちされた食事方針が提示されている。その1つが、「オオバコ(Plantago ovata)」の種子から得られる「サイリウム(psyllium)」と呼ばれる食物繊維の摂取だ。
サイリウムは便秘改善に一般的に使用されているサプリメントの1つで、特定のプロバイオティクスや酸化マグネシウムとの併用でも効果があるとされている。
本論文の共著者で同教室のケヴィン・ウィーラン教授は、今後さらに研究が進めば生活の質の向上にもつながる可能性があるとして次のように語る。
「今回のガイドラインは、医療従事者と患者が食事によって便秘を管理できるようになる、大きな一歩です。これにより世界中の便秘に悩む人々が、最も信頼できる最新の情報に基づいて症状改善に取り組めるようになります」
便通改善が期待される食品
ガイドラインでは、便通の安定化につながる可能性がある、次の食品と飲料も紹介されている。
キウイ:1日2〜3個を4週間以上続けて食べることで、便秘の改善が見込まれる。皮ごと食べることで食物繊維の摂取量が最大50%増えるという。ガスや膨満感が気になる人には、サイリウムよりも優しい選択肢となる可能性がある。
プルーン:排便時のいきみを軽減する点でサイリウムと同等の効果があり、取り入れやすい自然食品。
ライ麦パン:1日6〜8枚を3週間食べ続けることで、排便頻度が上がる可能性がある。ただし、すべての人の体質に合うとは限らない。
ミネラル分の多い水:1日0.5〜1.5リットルを2〜6週間飲むことで、低ミネラル水と比較して症状の改善が見込まれる。ただし、排便回数が必ずしも増えるわけではない。
イギリス栄養士協会(BDA)の広報担当で栄養士のサミー・ギル博士は、キウイはフレッシュサルサソースやスムージー、ヨーグルトのトッピング、フルーツ串など多様な方法で楽しめると述べる。特にキウイを皮ごと食べると、食物繊維の摂取量が最大50%増加するという。
その一方で、食物繊維が少なく、脂質・塩分・糖分が多い食品は便秘を悪化させる恐れがあるとして警鐘を鳴らす。
今回の新ガイドラインで推奨された食品の多くは、まだ研究段階にあることから、エビデンスレベルは「低〜中程度」だという。ただし、その半数以上は「推奨度が高い」とされ、実際の臨床現場でも実践可能な内容となっている。
各推奨事項には、エビデンスレベルと推奨度の高さが併記されていると研究チームは説明。その理由として、エビデンスの一貫性や直接性が不十分でも、便秘に悩む患者の多くに適用可能でリスクが少なく、コストも低いといった理由から強く推奨されるケースがあるという。
「高繊維食は健康全般に多くの利点があるものの、便秘の改善に特化した効果を裏づけるエビデンスは十分とは言えませんでした」とディミディ准教授は指摘する。
そのうえで今回の研究では、従来あまり注目されてこなかった新たな食事アプローチが浮かび上がった。今後、その有効性の高さを確かめるためにも、より質の高い臨床試験が急務だという。
【参考文献】
Dimidi, E., Van Der Schoot, A., Barrett, K. J., Farmer, A., Scott, S. M., Lomer, M., & Whelan, K. (2025). British Dietetic Association guidelines for the dietary management of chronic constipation in adults. Neurogastroenterology and Motility.
Oh, S. J., Fuller, G., Patel, D., Khalil, C., Spalding, W., Nag, A., Spiegel, B. M. R., & Almario, C. V. (2020). Chronic Constipation in the United States: Results From a Population-Based Survey Assessing Healthcare Seeking and Use of Pharmacotherapy. The American Journal of Gastroenterology, 115(6), 895-905.
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