大阪大微生物病研究所の小林剛教授らの研究チームは2日、魚の受精卵(胚)を用い、ヒトに感染する能力を持つノロウイルスを人工合成することに世界で初めて成功したと発表した。これまでの方法よりも効率よく合成でき、ノロウイルスが増殖する仕組みの解明や新たなワクチンの開発が飛躍的に進むことが期待されるという。
ノロウイルスは感染力が強く、冬場に起きる感染性胃腸炎の集団発生において主な原因ウイルスになっている。一方で培養が難しく、他のウイルスに比べて人工合成法の開発が遅れていることから、ワクチンや有効な治療薬は実用化されていない。
近年は、ヒトの腸の主要な機能を備えた「ミニ臓器」(オルガノイド)を用いた培養も行われているが、コストが高いなどの課題がある。その中で、コイ科の淡水魚のゼブラフィッシュを用いた培養法が報告され注目を集めていた。
研究チームはまず、ノロウイルスの遺伝子から人工的に作ったDNAを培養細胞に導入。濃縮したウイルスの粒子をゼブラフィッシュの胚に注入したところ、感染力のあるノロウイルスの合成や増殖が確認された。さらに、ゼブラフィッシュの胚にDNAを直接注入することで、培養細胞を介さずにより効率的にノロウイルスを作り出すことに成功した。
人工的に遺伝子を組み換えたり、発光するたんぱく質を導入したりしたウイルスを作製することもできた。
小林教授は「ノロウイルスをいかに効率よく増やすか、今後も続く課題だが、今回の人工合成の成功はその最初の一歩として大きな意味を持つ」と話した。【中村園子】
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。