歌人の藤原俊成(しゅんぜい)、定家(ていか)親子の流れをくむ歌道の冷泉(れいぜい)家(京都市上京区)で、冷泉渚(なぎさ)さん(44)が後継者に決まった。約800年続く「和歌の家」には国宝の「古今和歌集」や定家の日記「明月記」が伝わり、住宅も現存最古の公家屋敷(国重要文化財)だ。古都・京都で日本の文化を守り継ぐ思いを聞いた。

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冷泉家の後継者に決まった冷泉渚さん=2023年5月24日午後3時4分、京都市上京区、滝沢美穂子撮影

 ――冷泉家を継ぐ覚悟を教えてください。

 冷泉家には歴代当主の名前が残っていますが、支えてくれた人たちもたくさんいます。800年続いてきたことは並大抵のことではないと思います。受け継いだ文化をさらに洗練していかなければと思っています。

 建物や古典籍はもちろんですが、絵画や美術工芸品、道具類などもあります。重文などに指定されることはないかもしれませんが、大事なものです。なぜ大事かというと、年中行事をやるための道具だからです。

 年中行事には冷泉家住宅という場所も必要です。すべてを活用し、冷泉家が、文化が続く包括的な場所になることを目指しています。

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冷泉家には旧暦の七夕の儀式「乞巧奠(きっこうてん)」も伝わる=2025年8月29日、京都市上京区、新井義顕撮影

 ――家宝はどれぐらいありますか?

 数万点としか言いようがないんです。きちんと調査が進んでいるものは、全体の4分の1から3分の1ほど。残りを調べるのは、おそらく私が生きている間には不可能でしょう。「ここまでできたよ」というデータを次の世代に引き継がないといけません。

 古典籍も冷泉家時雨(しぐれ)亭文庫の手書きの活動記録も、デジタル化を進めることが課題です。文化財の情報公開も進めたいです。

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冷泉家に完成した新しい土蔵「北の大蔵」。膨大な文化財を守り継ぐためにつくられた=2025年6月5日、京都市上京区、清水謙司撮影

 ――なぜ800年も続いたのでしょうか?

 定家卿(きょう)は明月記の中で「紅旗征戎(こうきせいじゅう)吾(わ)が事にあらず」と記しています。政治や争いごとは、自分がやる和歌の世界には関係ないと。長く続いてきたのは、政治的な動きと直接関わらず、陥れられることがないから。平和やったんです。

 ――明治時代になり、多くの公家が東京に移りました。冷泉家が京都に残ったのはなぜですか?

 京都御所の管理人みたいな役(留守居役)に就いていたからです。政治家ではなく和歌の家ですから、政治の中心が移っても東京に行く必要はなかったと思います。

 先祖代々の和歌の史料は大事な仕事道具です。たくさんあって持っていけず、「ここにいときましょう」となったのかもしれません。

 ――先祖が守ってきた和歌を学ぶ大切さについて教えてください。

 和歌は自分のことを詠むのではなく、みんなで共有できることを詠む。それは美術、工芸、香道、茶道など、いろんな文化に生かされています。和歌を学んだら他のことに広がります。

 冷泉家では和歌(うた)会を開き、和歌の指導をしています。遺跡ではありません。今も続けていることを知ってもらいたいです。

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冷泉家の後継者に決まった冷泉渚さん=2023年5月24日、京都市上京区、滝沢美穂子撮影

 ――「和歌の家」の未来を担う立場になり、心がけていることはどんなことですか?

 まずは古典の勉強です。古典籍のことではありません。高校のときに使った古典の教科書や参考書で学び直しています。姉が古典の教師なので聞いています。基礎は大事です。

 ――子どもの頃から古典は得意でしたか?

 あまり得意ではありませんでした。かるた取り大会や百人一首大会があると、先生たちから「意外と得意じゃないんや」と驚かれました。

 ――日本画を学び、文化財の保存・修復の専門家として学芸員も経験されました。今後やりたいことはなんですか?

 公開です。1997年から全国を巡回して開かれた展覧会「京の雅(みやび)・和歌のこころ 冷泉家の至宝展」からずいぶんたち、調査も進んでいます。研究者としては、そうした大規模な展覧会をやらせてもらいたいと思っています。

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冷泉家の後継者に決まったことを披露する集まりで決意を語る冷泉渚さん=2025年11月29日、京都市東山区、清水謙司撮影

 れいぜい・なぎさ 1981年生まれ。冷泉家25代当主為人(ためひと)さんの妻、貴実子さんのめい。京都嵯峨芸術大(現・嵯峨美術大)で日本画を専攻し、京都市立芸術大大学院美術研究科博士(後期)課程修了。宮内庁正倉院事務所(奈良市)の研究職や平等院(京都府宇治市)の学芸員などを務めた。2023年に冷泉家の後継者に決まり、今年11月29日、披露の会が開かれた。現在は冷泉家時雨亭文庫学芸課長。

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冷泉家後継者の冷泉渚さん=本人提供

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