「男性不妊専門病院を受診した方が良いかもしれません」
30代の医師、徳井浩光さん(仮名)は2023年、妻と一緒に婦人科を受診した。診断の言葉は妻ではなく自分に向けられていた。
当初、なかなか子どもを授からないのは妻の過去の過度なダイエットの影響で、月経不順の状態が続いていたためだと思っていた。
6人に1人が生涯で一度は不妊を経験する時代といわれる。
だがその中に男性も含まれるという認識は広がっているとは言えないのが現状だ。
まずは検査を
徳井さんが男性不妊専門の病院へ転院し、下された診断が「精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)」だった。
精索静脈瘤は、精巣の周囲にある静脈がこぶ状に膨らみ、血流が滞ることで精巣の温度が上昇、精子の質や量に悪影響を及ぼす疾患だ。精巣機能の悪化や陰のうの違和感、痛みなどの症状がある。
「内科医として働いているため、知識として精索静脈瘤は知っていましたが、まさか自分がなるとは思っていませんでした」
徳井さんは当時の心境を語る。
「でも異常を知って振り返ってみると、精巣の左側が張ったように感じることがありました」
違和感と診断が線でつながり、驚きはなかった。転院先での初診から約1カ月後、手術を受けることになった。
術後、妻は妊娠し、昨夏に双子を出産した。
「早めに気づけて良かったと思います。今は出産も育児も男性が自分のこととして捉え、二人で乗り越えていく時代だと思います。受診したくないという気持ちも理解できますが、まずは検査してみるということは大切だと思います」
徳井さんは男性不妊の当事者として語る。
若年層、性器の違和感抱え込みやすく
医療法人社団マイクロ会(東京都港区)は今年6~7月、全国の15〜19歳の中学・高校・大学に通う男性各100人ずつを対象に、男性不妊につながる「性器の違和感に関する意識調査」をインターネット上で実施した。
対象となった計300人のうち35・0%にあたる105人が「性器に違和感を感じたことがある」と回答し、さらにそのなかの29人が「精巣の大きさに左右差がある」「片方がいつも垂れ下がっている」「陰のうの表面がデコボコしている」などと精索静脈瘤を疑う症状があったと回答した。
男性不妊治療に携わってきた銀座リプロ外科院長の永尾光一医師によると、精索静脈瘤は放置すると精子の運動率が低下したり精液の濃度が薄まったりして、将来的には体外受精や顕微授精が必要となる「男性不妊」につながる場合がある。
そして、違和感を覚えた時期として最も多かったのは「中学生」59%で、「小学生以前」計18%、「高校生」17%、「大学生」3%の順だった。
違和感を誰かに相談したかを尋ねたところ、59%が「誰にも相談したことがない」と回答。
男性不妊につながる体の違和感を10代のうちから自覚しているケースが多いことや、違和感を覚えても周囲に打ち明けづらく、治療につながっていない実態が浮き彫りとなった。
「決して珍しい病気ではない」
世界保健機関(WHO)などによると、不妊症は「男性または女性の生殖器系の疾患」で「12カ月以上定期的に避妊せずに性交を行っても妊娠に至らない状態」を指す。
成人人口における生涯有病率は、高所得国で17・8%、低所得国と中所得国ではそれぞれ16・5%と国の医療水準などによる影響は小さく、世界中で6人に1人が一度は不妊症を経験しているのだ。
不妊に悩む男女のうち、原因の41%が「女性のみ」とされるが、「男性のみ」も24%あり、「双方」(24%)を加えると半数近くのケースで男性にも原因があった。
そして、男性不妊のうち、約4割が精索静脈瘤が原因だと推計されている。
受診の目安は
どんな違和感がある場合、受診の目安になるのだろうか。
永尾さんは「初期段階では痛みや違和感があまりないため病気に気づきにくく、定期的に自分でチェックしてみる」ことを勧める。
精索静脈瘤であれば、陰のうの大きさに左右差がある▽精巣の大きさに左右差がある▽陰のうの片方が常に垂れ下がっている▽陰のうの表面がデコボコしている▽陰のうの血管がミミズのように浮き出ている――といったケースに一つでも当てはまれば、泌尿器科を受診するよう促す。
不妊に悩む夫婦の場合、不妊治療を行う女性だけで不安を抱え込んでしまうことも多いことから、永尾さんは少しでも違和感があれば男性に受診するよう呼びかける。
「放置しても死に至る病ではありませんが、早ければ早いほど精巣の機能や大きさが回復する可能性があります」【山本萌】
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