こども家庭庁は26日、子どもと接する仕事に就く人の性犯罪歴を雇用主が確認する「日本版DBS」の運用指針案を関係省庁会議に示し、了承を得た。認可保育所や学校など公的施設に対応を義務づけ、学習塾やスポーツ教室など民間事業者には任意の認定制度を設ける。塾大手などは安全な環境づくりへ認証申請に動き始めた。

こども性暴力防止法が2026年12月25日に施行となるのにあわせ、制度の運用を始める。事業者に子どもと接する仕事に就く人への研修や性犯罪歴の確認を求める。指針案は対象となる職種や事業者の範囲を明確にした。

小中学校や高校、認可保育所、児童福祉施設などで働く教員や保育士は一律で確認対象になる。送迎バスの運転手や警備員らも現場の判断で対象になる可能性がある。

学習塾やスポーツクラブ、放課後児童クラブ、芸能事務所などの民間事業者も、国の認定を受ければ確認対象になる。「対面で指導」「指導者が3人以上」といった要件を満たし、国の認定を受ければ公的施設と同様の対応を求められる。

現在その職種に就いている人の性犯罪歴を確認した場合は、子どもと接する業務から原則除外しなければならない。新規に採用する人の犯罪歴が判明した場合は内定の取り消しを検討してもらう。

日ごろの安全確保策として防犯カメラの設置も推奨する。子どもと1対1になる可能性のある場所などへの設置を想定する。

民間事業者にとっては認定の取得は負担となる一方で、保護者に安心材料を与える効果も期待できる。認定を受けた施設や事業者は国の「認定マーク」を施設の看板やホームページ上に掲示できる。国のお墨付きを得た施設として、利用者の増加も見込める。

過去に講師による教え子の盗撮事例があった学習塾業界では、各社が子どもの安全対策を進める。

「SAPIX」「早稲田アカデミー」「森塾」「明光義塾」「栄光ゼミナール」「スクールIE」といった大手学習塾の各運営会社は日本経済新聞の取材に対し、日本版DBSに申請する方針を示した。

森塾を運営するスプリックスの堀貴司執行役員は「講師の採用時は模擬授業による言動の確認やインターネットでの犯罪歴調査をしてきたが完全な把握は難しい。DBSでより安全な環境を提供できる」と歓迎する。

SAPIXを運営する日本入試センター(東京・渋谷)は25年に小学生向けの全教室への防犯カメラの設置を完了した。広野雅明教育事業本部長は「カメラの調達は難しかったが、自ら被害を申告しにくい子どもの安全確保には不可欠だ」と説明した。

スクールIEのやる気スイッチグループ(東京・中央)は「ガイドラインにある不適切行為は既に禁止事項としており、今後は会社の規約にも盛り込む」(同社担当者)としている。

小学生を含め子どものタレントやタレント志望者の育成をする芸能事務所にも対応する動きが出ている。アイドルが多く所属するSTARTO ENTERTAINMENT(東京・港)は認定の申請を「検討している」と答えた。

政府は性犯罪歴を確認する民間事業者に対し、情報の適切な管理も求める。現場で犯歴情報を扱う担当者を必要最低限にし、記録や保存は極力避けるなどの措置の順守を求める。情報管理や犯歴照会の状況について自治体やこども家庭庁への定期報告を義務付ける。

子どもと個人的にSNS 不適切行為を例示 

日本版DBSの指針案は「不適切な行為」の具体例を記載した。SNSでの個人的なやりとりや不必要な身体的接触、一対一での車による送迎などを例示した。

指導したにもかかわらず「不適切な行為」を繰り返す場合は「性暴力のおそれ」に該当し、子どもと接さない業務への配置転換などの措置が必要となる。

学校の教員によるわいせつ事案が相次いでいることを受け、自治体も対策を進めている。文部科学省が47都道府県と20政令指定都市の計67教育委員会を調査したところ、25年10月時点で全67教委が教員と児童生徒が密室状態になることを回避するよう学校などを指導していた。

学校内での盗撮を防ぐため、60教委は私用スマートフォンの使用や画像データの管理についてルールを策定している。トイレや更衣室の近くに盗撮防止用カメラを設置したり、隠しカメラの探知機を導入したりする自治体もある。

こども家庭庁によると、09〜21年に摘発された性犯罪の容疑者のうち、9割は過去に同様の犯罪歴がなかった。DBSによって初犯の被害を未然に防ぐのは難しい。各自治体は性犯罪が起きにくい環境づくりも急ぐ。

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