帰省が近づくと、気分が落ち込む――。
年末年始に近づく季節、夫や妻の実家で過ごす帰省を憂鬱に思う「帰省ブルー」に陥る人も多いのではないだろうか。
「義実家」への帰省について尋ねた民間調査では、女性の方が帰省を負担に思う傾向が表れた。
家族のあり方について詳しい立命館大学産業社会学部の筒井淳也教授は、時代とともに「義実家との関係の希薄化」が進み、妻が負担に思う内容も変化していると指摘する。
帰省ブルーの軽減には、どういった対策が効果的なのだろうか。
「嫁入り」から「お客様」へ
「かつては嫁入り文化によって、帰省では夫の実家に帰ることが優先されてきました。しかし今は、結婚してもどちらかの家族の一員になるのではなく、夫と妻の親戚関係はそれぞれ別である、という考え方が広がっています」
筒井さんは、家族観の変化を説明しながら、義実家における妻の立ち位置の変化について、こう解説する。
義理の親が、妻を「お嫁さん」ではなく、「お客さん」のように捉えるケースが増え、帰省してきた際にどう扱っていいのか分からない。義母が自分の時代では当たり前だった家事の手伝いなどを頼んでいいものか迷い、どこか気まずい空気が流れる。
一方の妻は「お客様扱い」を受けつつも、義実家ではどう振る舞っていいかも分からず、ゆっくりくつろぐこともできない。
帰省ブルーは「妻>夫」
いやいや、オレだって義実家への帰省は負担だよ――。
そんな異論を唱える男性もいるかもしれないが、データは女性の方が負担感が大きいことを示す。
総務省統計局の2021年の社会生活基本調査では、6歳未満の子供を持つ家庭では、1日当たりの家事関連時間は妻が7時間28分と、夫の1時間54分を圧倒した。
共働き世帯が増えている一方で、家事の負担に偏りが存在するため、妻が貴重な休みに自宅以外で宿泊することをより負担に感じたり、子育てに関する価値観の相違をストレスに感じたりして帰省ブルーになる割合も多いようだ。
25~59歳の既婚男女500人を対象にキャリアコーチングなどを手がける「ミズカラ」が行った調査では、「義実家に帰省することについてどう思うか?」との質問に「楽しみ」と回答したのは、夫が15%に対し、妻は4%だった。「抵抗ない」との回答も、夫側は48%だったが、妻側は26%にとどまった。
「行きたくない」との回答は、夫が8・5%に対し妻は26%。「おっくうだと感じる」との回答も、夫は21・5%、妻は33%と、義実家の帰省をネガティブに感じる回答の割合はいずれも妻が多く、夫婦間での義実家帰省への捉え方の違いが浮き彫りとなった。
筒井さんは、こうした夫婦間格差について「夫は義実家へ帰省するとしても、昔から一貫して『お客様』として扱われることが多いです。手伝いなどの負担が妻に偏ることが多いため、帰省が嫌だと思う男女の偏りも出てきます」。
究極の解決策? 広がるセパレート帰省
女性を中心に広がる「帰省ブルー」を背景に、最近広がっているのが夫婦それぞれが自分の実家で過ごす「セパレート帰省」だ。
筒井さんは、夫婦に子供がいる場合には、夫が子供を連れて帰省する「父子帰省」を提案する。
なぜだろうか?
「仕事と家庭を両立する妻が一人の時間を持つことができるのが最大のメリットです。道中の子供の世話によって、夫に子育ての大変さを自覚してもらうきっかけにもなります」
では、夫婦そろっての夫の実家への帰省が決まっている場合、なすすべはないのだろうか。
そんなときに不可欠なのが「夫の調整」だという。
「会話などの中で、義理の父母と妻の考え方の違いを感じ取った場合は、夫が間に入ってそれぞれに声をかけるなど、意識して仲介することが大切になるでしょう」
筒井さんは、帰省の多様化は今後も進んでいくとの見方を示す。
「帰省は家族のつながりを確認する意味合いもあり、なくなることはないと思います。しかし、セパレート帰省や父子帰省のほか、正月は帰省せずに時期をずらすといった、夫婦の事情に応じて臨機応変な形が広がっていくのではないでしょうか」【松山文音】
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