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<おくすり手帳を忘れると医療費が高くなる...制度移行の最新状況を踏まえながら、マイナ保険証とおくすり手帳を併用すべき理由を分かりやすく解説する>

病院や診療所で処方された薬の情報を時系列で記録する「おくすり手帳」。患者の同意があればマイナ保険証でも投薬履歴は確認できるが、「おくすり手帳」の利便性にはかなわない。『医療費の裏ワザと落とし穴』では、マイナ保険証と一緒におくすり手帳も携帯すべき理由をお伝えする。(フリーライター 早川幸子)

制度移行の特例対応で期限切れの保険証が使えるのはいつまで?

2025年12月1日で、従来の健康保険証は全ての公的医療保険で有効期限を迎えた。

23年6月9日に公布された改正マイナンバー法で、公的医療保険の資格確認はマイナ保険証を中心にすることが決められ、24年12月2日をもって従来の健康保険証の新規発行が停止された。


従来の健康保険証の有効期限は1年間とされ、それ以前に発行されたものも有効期限が来たら効力を失うことになった。

公的医療保険の中でも国民健康保険や後期高齢者医療制度の多くは、健康保険証の有効期限を8月から翌年7月までの1年間に設定していたため、先行して25年7月に有効期限を迎えていた。

一方、有効期限を設けていなかった会社員や公務員などが加入する健康保険は、この法改正によって25年12月1日で有効期限を迎えることになったのだ。

今後、公的医療保険の資格確認はマイナ保険証が中心になるが、現在は制度移行の特例対応として、期限切れの健康保険証でも通常の自己負担割合(1~3割)で受診できる措置がとられている。

だが、期限切れの健康保険証でも受診できるのは26年3月末までで、4月以降は原則的にマイナ保険証が必要になる。

マイナンバーカードを保有していなかったり、マイナ保険証の利用登録をしていなかったりする人には、これに代わるものとして資格確認証が自動送付される。また、後期高齢者医療制度に加入している75歳以上の人、マイナ保険証の登録を解除した人も自動送付の対象だ。

この他、障害のある人、高齢の人など、マイナ保険証で医療機関を受診するのが難しい人は、申請すると資格確認書を発行してもらえる。

このように、医療機関の受診時にはマイナ保険証、もしくは資格確認書を提示するように変更されたが、これまでと変わらずに持っていきたいのが「おくすり手帳」だ。


処方された薬や健康診断情報が医師や薬剤師に共有される仕組み

マイナ保険証で医療機関や薬局を利用する場合、受け付けにある読み取り機械を操作して、顔認証か暗証番号入力で本人確認を行う。

この時、医療情報の提供に「同意する」を選択すると、これまでに処方された薬や健康診断などの情報が医師や薬剤師に共有され、過去の診療内容などに基づいた医療が受けられるというメリットがある。

ただし、投薬履歴は1カ月前までの情報しか反映できず、現状では情報のタイムラグが起こっている。

一方、資格確認書で受診した場合は、そもそも医療情報の共有が難しい。

重複投与や相互作用などの健康被害を防ぐためには、マイナ保険証の人も、資格確認書の人も、忘れずにおくすり手帳を携帯する必要がある。

さらに、医療安全だけではなく、医療費の面でも損することになる。おくすり手帳を忘れると、自己負担額が40円高くなってしまうのだ。

おくすり手帳は、病院や診療所で処方された薬の情報を時系列で記録するための手の平サイズの手帳だ。複数の医療機関から出された薬の情報を一つにまとめて記録し、薬の重複や相互作用による健康被害を防ぐことを目的に導入された。

おくすり手帳を持参する医療費面のメリット自己負担が高くなるケースとは?

当初、おくすり手帳による情報提供は、一部の医療機関や調剤薬局が任意で始めたサービスだったが、2000年に国の制度になり、調剤報酬がかかるようになった。おくすり手帳への情報提供にかかる料金は、現在は薬局の調剤報酬のひとつである「服薬管理指導料」に含まれている。


服薬管理指導料は、薬剤師が患者に医薬品の情報提供や服薬指導などを行うことに対する料金だ。具体的には、処方された医薬品の確認と説明、残薬の確認などの服薬指導、薬の使用状況の継続的なフォローアップといった一連の調剤業務を行うことが薬剤師に義務づけられている。

一般の患者が薬局を利用した場合の服薬管理指導料は次の2つで、おくすり手帳の「あり・なし」によって差が出るようになっている(介護老人福祉施設等の入所者を除く)。

同じ薬局を3カ月以内に利用し、おくすり手帳を持参した場合は(1)で、服薬管理指導料は処方箋の受付1回につき450円。70歳未満で3割負担の人の自己負担額は140円だ。

それ以外の人は(2)で、「その薬局を初めて利用した」「同じ薬局を利用したが3カ月超えていた」「同じ薬局を3カ月以内に利用したが、おくすり手帳を忘れた」という場合は、服薬管理指導料は590円で、自己負担額は180円になる。

ここで注意したいのが、「同じ薬局を3カ月以内に利用した」場合だ。利用した薬局、利用頻度は同じなのに、おくすり手帳を提示しなかっただけで自己負担額が40円高くなってしまう点だ。

おくすり手帳は、これまでの服用履歴を時系列でまとめていくもので、複数の医療機関から処方された薬が1冊の手帳にまとめられていることが前提となっている。

これを見れば、その患者が服用している薬が一目で分かり、重複投与や相互作用などが見つけやすくなり、薬剤師の業務効率も上がる。

以前は、おくすり手帳を持参した患者の医療費が高くなったり、おくすり手帳にかかる料金が薬局の規模によっては異なっていたりして、おくすり手帳を持参することにメリットを見いだせないような調剤報酬体系がとられていた時期もあった。

だが、現在は、患者にとって不条理な仕組みは見直され、薬局の規模にかかわらず、同じ薬局を3カ月以内に利用した場合は、おくすり手帳を持参した方が患者の自己負担分は安くなるように見直されている。

初めて行った薬局や、同じ薬局を3カ月を超えて利用した場合は、服薬管理指導料は安くはならないが、おくすり手帳を持っていっても医療費が高くなるわけではない。何よりも、おくすり手帳があったほうが、万一の健康被害を防ぐことができる。


内閣府の世論調査「薬局の利用に関する世論調査」(2020年10月調査)によると、71.1%の人がおくすり手帳を「利用している」と答えている。

おくすり手帳の利用は定着してきており、70歳以上の人は84.6%が利用している。ただし、18~29歳の人は59.2%、30~39歳の人は59.8%で、若い世代の利用率は6割程度にとどまっている。

「おくすり手帳」は1冊に情報をまとめよう旅先で病気やケガをした時の助けにも

薬は正しく飲めば、病気やケガの回復を助けてくれるが、用量や用法を間違えると、思わぬ健康被害を招くことがある。

前述のように、おくすり手帳は、重複投与や相互作用による健康被害を防ぐためにつくられたもので、効果的に使うためには複数の医療機関から処方された薬の情報をまとめて記録しておくことが大切だ。

そのため、おくすり手帳は何冊も持たずに、1冊だけにして、全ての情報をまとめるようにしておこう。処方薬だけではなく、ふだん飲んでいる市販薬やサプリメントの情報なども書き込んでおくと、薬剤師から服薬に関するアドバイスを受けることもできる。

また、旅先で病気やケガをしたり、緊急搬送されたりした時も、おくすり手帳を携帯していると、ふだん服用している薬が分かり、安全で効果的な治療を受けやすくなる。

公的医療保険の資格情報の方法は、マイナ保険証や資格確認書に見直されたが、どんな薬局に行く時も、おくすり手帳は変わらずに持っていくようにしたい。

※当記事は「DIAMOND online」からの転載記事です。元記事はこちら。

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