毎日小学生新聞の読者の小中学生に自身の作品を説明する安彦良和さん(右から2人目)=東京都・渋谷区立松濤美術館で2025年11月30日、木村健二撮影 『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』Ⓒ創通・サンライズ

 アニメ「機動戦士ガンダム」のキャラクターデザインを手掛け、古代史や近代史をテーマにした漫画作品を送り出してきた安彦良和さん(78)。およそ50年にわたる創作活動を回顧する「描く人、安彦良和」が、東京都・渋谷区立松濤美術館で2月1日まで開かれている。毎日小学生新聞の読者の小中学生のインタビューに応じ、北海道の奥地で漫画に夢中になった少年時代を振り返る一方、数々のメカの描き手としては意外な素顔をのぞかせた。【まとめ・木村健二】

まねから始まる

 ――漫画家になりたいと思ったのはどんなきっかけがあったんですか。

 ◆小学校3年生の時に読んだ漫画がおもしろかった。鈴木光明さんの「織田信長」っていう漫画を読んだんです。「冒険王」という雑誌の別冊ふろくで、僕は買ってもらえなかったから、郵便配達のおじさんにもらった。「こんなの描きたい」と思って、まねして描きました。

 横山光輝さんとか手塚治虫さんのまねもして、中学生のころまで漫画家になりたいって思っていたんです。高校生になったらあきらめたんだけれど、好きなものはやめられなくて、勉強そっちのけで描いていたんだね。「遙かなるタホ河の流れ」という自作の漫画を描いていたんで虫プロダクションに持っていけた。

毎日小学生新聞の読者の小中学生の質問に答える安彦良和さん=東京都・渋谷区立松濤美術館で2025年11月30日、木村健二撮影

 大事なのは、まねをすることだと思うんですよね。最初から自分だけのものを作ろうったってできないんですよ。まねをして、「あ、これって自分のオリジナルかな」みたいなのが出てくるんで。だから、人からいいところをどんどんいただいちゃうっていうのは大事なんじゃないかな。悪いことのまねだけはしない方がいいと思うけれど(笑い)。

 僕がいたのは北海道の山奥なんですよ。子どもが50人ぐらいいて、4~6年生は校長先生が教える。6年生になった時に校長先生が代わって、絵描きさんだった。絵の具で水彩の描き方を初めて教わった。絵のことを教わったのは僕の人生でその1年だけです。

 漫画家やアニメーターになりたかったら、やりたいように自分で楽しみながら描けばいいんですよ。人はそれぞれできることとできないこと、得意なことと不得意なことがあります。

 僕は車の運転もできない。運動神経、反射神経が鈍くて、機械が苦手なんです。だから、「自分はこれが好き」っていうことを好きなように伸ばしていけばいいんじゃないかな。

学校嫌いだった

『遙かなるタホ河の流れ』上巻より

 ――私たち小学生にどんなことを伝えたいですか。

 ◆小さい時は結構つらいことが多くて、学校嫌いだったんですよ。だから、しょっちゅう遅刻して、遅刻で有名だったんです。友達とワイワイするとかが嫌いだったから、わざと時間をずらして行くんですよ。今だから言えるけれど、結構ずる休みもしました。

 学校はみんなワイワイ楽しく行くものだっていう決めつけがあるみたいだけれど、学校嫌いなのは普通だよ。それを特別だと思わない方がいい。

ハロが一番好き

 ――ガンダムでキャラクターとモビルスーツの関係をどう考えていますか。

 ◆だいたい主人公とライバルがいてモビルスーツに乗るよっていう約束になっています。ガンダムの制作はチームプレーなんで、「あいつは敵だな」「こういう機能があるんだ」とか区別をつけて分かりやすくする。差別化って言うんですけれど、いろいろアイデアを出し合って考えるんです。

『機動戦士ガンダム THE ORIGIN  Ⅴ 激突ルウム会戦   Blu-ray Disc Collectorʼs Edition(初回限定生産)』 飾れる収納箱用イラスト原画 © 創通・サンライズ

 ――どのモビルスーツに乗りたいですか。

 ◆やっぱりガンダムだろうな。主人公が乗るので一番エネルギーを注いでいるから。ただ、僕は車の運転もできないんで、たぶん操縦できないと思う。「乗せてやるよ」って言われたら、ガンダムしかない。

 一番好きなメカキャラはハロ(球形のペットロボット)です。描きやすい(笑い)。裏話をすると、あれも大河原邦男さんが作ったんだけれど、ガンダム用じゃなくて、別の企画で作ったの。その企画がボツになって、あそこに入っちゃった。ホワイトベース(地球連邦軍の宇宙戦艦)もそうです。そういうこともあるんです。

 自分でガンプラを作ることはないです。描く専門です。僕が子どもの頃、まだプラモデルがなかったんですよ。そういう時代だったので、自分でプラモデルで遊ぶことは知らない。プラモデルっていう文化を知らないです。

うれしいこと

 ――漫画家をしてきてうれしかったことは何ですか。

 ◆うれしいと思うことが二つあって、一つは売れることなんです。売れたらお金が入る、もうかる、それはうれしくないはずはないんです。もう一つはほめられることなんです。「面白いね」とか「うまいね」とか言われると、やっぱり気持ちはいいんですよ。

 一番売れたのはガンダムで、一番ほめられたのもガンダムですね。アニメの時代もそうだし、漫画家になってからも「THE ORIGIN」。ガンダムはやっぱり大きいですよ。自分の中でとても幸せな体験をさせていただいた。

 著作権の問題があって、僕にはお金はそんなに入らないんで、ガンダムのおかげで大金持ちになったっていうことはないんです。ただ、みんなに知ってもらうと、仕事が来るんです。本当にガンダムのおかげでいろいろな機会をいただいた。

歴史漫画の魅力

『虹色のトロツキー』第5集第3章より 漫画原稿 1994年 © 安彦良和/潮出版社

 ――どんな思いで歴史漫画を描いていますか。

 ◆歴史のそれぞれの時代を今として生きた人がいる。その時代に生きていた人は「どんな気分だったのか」とか「何を考えていたのか」とか「どういう未来を想像していたのか」とか、そういうところに興味がいくんですね。僕はわりと明治の話とか大正の話を描くんですけれども、おじいさんたちの世代がこの時代に何を考えていたんだろうっていう想像を働かせて描きます。

 僕らは自分に与えられた時代しか生きられないんだけれど、想像して描くと、なんだかその時代にも生きていられたような気がする。歴史を題材に物語を描くっていうのは、そういうことが味わえるのが魅力なんじゃないかな。

 ――作品を通じてどんなことを伝えたいですか。

 ◆まず「その時代を自分が生きていたらどうしたか」っていう感じで物語に入って、主人公に移し込んで話を始める。僕は最初に話の筋とかを考えない人間で、ほとんどなりゆきに任せるんですよ。だから、例えば、「命の大切さを描きたい」とか、「平和の大事さを描きたい」とか、そういう具体的なテーマはあんまり浮かばないんですよ。

 「宇宙戦艦ヤマト」をやった時に、一番のボスがプロデューサーで西崎義展という人がいる。その人はすごいんですよ。「テーマは愛だ」って言う。「人類愛だ」、最後は「宇宙愛だ」って言うんですよ。そういうことを堂々と言える人はすごいし、うらやましい。

 テーマを平和にするとしても、平和もいろいろなことがあるでしょう。例えば、ある国にとっての平和が隣の国にとっては不幸だったりする。だから、なかなか難しいですよ。

略歴

 やすひこ・よしかず 1947年、北海道遠軽町生まれ。弘前大学に進学したものの、学生運動に参加したことで退学処分を受け、上京してアニメ制作の道へ。「クラッシャージョウ」「アリオン」「ヴイナス戦記」などを手掛けた後、漫画家に転じて「ナムジ―大國主―」「虹色のトロツキー」「王道の狗」などの歴史漫画を描いてきた。長編漫画「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」はアニメ化も実現。現在、「週刊ヤングジャンプ」(集英社)で「銀色の路(みち)―半田銀山(やま)異聞―」を隔週連載中。

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