荷物を片付ける須藤昌子さん。土日を利用し、夫と協力して実家じまいに取り組んだ=本人提供
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 離れて暮らす両親が高齢者施設に入ったり亡くなったりしたら、実家はどうなるんだろう……。

 漠然とそう思いつつ、まだまだ元気だからと具体的な話し合いを先送りにしている人は少なくないかもしれない。

 だが、夫と自身の実家を整理・処分した千葉市在住の整理収納コンサルタント、須藤昌子さん(57)は「親が元気で意思表示や判断をしっかりできるうちに話し合っておくことが、後々お互いのためになる」と語る。

 先送りを続けた場合、どんなトラブルが想定されるのか。

 話し合うにしても、何かとデリケートな話題をどう切り出せば?

 経験豊富な須藤さんに、年末年始の帰省のタイミングで親と確認しておきたい「実家じまい」のポイントを教えてもらった。

義理の両親2人暮らしに「限界」

 須藤さんの夫の実家は5LDKの一戸建てで、自宅から車で20分ほどのところにあった。

 義理の両親は2人とも高齢で、以前は須藤さんが病院の送迎や外出時の付き添いをサポートするなどしていた。

 だが2023年夏ごろ、両親の2人暮らしに「限界」を感じるようになった。

薬局でもらう処方薬が入っていたビニール袋。捨てずにため込まれていた=須藤昌子さん提供
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 義父がテーブルの上に仕分けておいた薬を間違えて飲んでしまう出来事があったことに加え、介護サービスを勝手に断ったり、着衣や家の中を清潔に保つことが難しくなったりしたためだ。

 そこで、2人とも高齢者施設に入ってもらうことを決意し、家も売却することにした。

「家は好きにしていいよ」が一転

 両親はかねて、家については「あなたたちの好きにしていいよ」と言っていた。

 だが、いざ売却の話を切り出すと、「家を売るなら死ぬ」と言うようになった。

 1日に何十回と須藤さんや夫のスマートフォンに電話をかけてきては、施設への入所を拒んだ。

 そのたびに施設の方が安心安全に暮らせることなどを話して説得し、23年10月に何とか入所にこぎ着けた。

 そんな経験を踏まえ、須藤さんはこう呼びかける。

 「親がまだ元気でも、例えば認知症になったら誰が介護するのか、どんな状態になったら施設に入るのか、実家はどうするのかといった大枠は話し合っておくとよいでしょう。切羽詰まってから具体的なことを話し合うより、元気なうちから親子間で今後のことを気軽に話し合える関係性を築いておくことが大切です」

預金残高600円に「うそでしょ」

 実家じまいをするといっても、業者などに片付けを依頼すればお金がかかる。

実家じまいで出た大量のごみ。可燃ごみだけで100袋を超えた=須藤昌子さん提供
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 だが、須藤さんは義父から保険の解約手続きを頼まれ、初めて本人の預金通帳を確認した際、目を疑った。

 「うそでしょ? 何十年も働いて普通に暮らしてきたはずなのに、どうして……」

 残高は600円ほどしかなかった。

 ガス代の支払いも遅れていることが分かり、青ざめた。

 仕方なく、夫と協力して自力で片付けることにした。

実家の物の多さに圧倒され

 実家の片付けを始めると、物の多さに圧倒された。

 義母は掃除好きで部屋にもあまり物がなかったため、それまでは「自分に必要なものだけを持つ人」というイメージがあった。

 だが、キッチンの床下収納にはクモの巣が張った鍋や未使用のフライパン、花瓶などがいっぱいに押し込まれていた。

 タンスや押し入れからはビニールのパッケージに包まれた新品の洗濯ばさみや化粧品、100本以上のハンガーが出てきた。

未使用のまま使用期限切れになっていた乾電池。液漏れしたものやさびているものも見つかった=須藤昌子さん提供
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 電球、乾電池、洗剤、医薬品のストックも家のあちこちで見つかり、中には何年も前に使用期限が切れているものもあった。

 「途方に暮れる思いでした。家に物が少ないのではなく、ただ目障りな物をしまいこんでいるだけの状態でした」

 毎週土日は朝から晩まで夫と2人で片付けをし、平日夜も仕事が終わってからごみの分別などに当たった。

 こうした生活が3~4カ月続いた。

不用品の処分に35万円

 ごみを捨てるにもお金は欠かせない。

 結局、スプリング付きのソファなど産業廃棄物処理業者に依頼しなければならなかった分を含め、不用品の処分に計約35万円もかかった。

 費用は、大量にあった物の中から値段がつきそうな物をリサイクルショップに持ち込んだりして捻出した。

 年を重ねれば重ねるほど、使わなくなったり使いづらくなったりする物は増えてくる。

 今思えば、その都度処分や買い替えが必要だった。

 須藤さんは後悔を口にする。

 「普段から『使わなくなった物はない?』『使うのが大変になった物はない?』と声をかけておくべきでした」

本当に大事な物も

 とはいえ、親にとって本当に大事な物は思い切って処分できないこともある。

整理収納コンサルタントの須藤昌子さん=本人提供
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 須藤さんは1年前、1人暮らしだった実母がサービス付き高齢者住宅に引っ越す際にも実家じまいを経験した。

 引っ越し先に持って行ける荷物が限られる中、実母が選別に最も苦労したのは洋服だった。

 「母にとっては、洋服を楽しむことが幸せや生きがいなのかもしれないと気づきました」

 その上で、今後実家の片付けをする人に向けてこう語る。

 「何でもかんでも捨てなきゃと思わず、手元に残す物と捨てる物をしっかり選択し、納得した上で進められるとよいですね」

預金、保険…親子で情報共有を

 一方で、資産や利用中のサービス、大事な書類の保管場所といった情報を親子で共有しておくことも重要だ。

 預金はどのくらいあるのか、どんな保険に加入しているのか、年金の関係書類や印鑑、保険証などはどこに保管しているのか、子どもであっても知らないことは多い。

 そこで、「身近で1人暮らしのお年寄りが困った状態になったことなどを例に出し、『うちもやれることから少しずつ……』といった形で切り出すとよいかもしれません」と須藤さんは語る。

 具体的には、同じ会社の同年代の人の親が急に入院することになり、手続きに必要な保険証や印鑑の保管場所、加入している保険が分からなくて困ったというようなエピソードがあれば、それを伝える。

 そして、「うちも同じように困るといけないから、いろいろな情報を共有しておきたい」と提案してみる。

 須藤さんは「誰しも、こうした困りごとは自分の身には起こらないと思っているところがあるので、あまり直接的に言うと関係性が悪くなることもあります。でも、『他の誰かが』という話からアプローチすれば、柔らかく受け止めてもらえるかもしれません」とアドバイスする。【近藤綾加】

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