「図書室等に置いたままにせず、いったん職員室や校長室等で保管を」。長崎市教育委員会は6月上旬、学校教育課長名で、市立67小学校の校長宛てに、ある冊子の取り扱いについて周知するメールを送った。
冊子は「まるわかり!日本の防衛 はじめての防衛白書2024」。防衛省・自衛隊が小学校高学年から高校生を対象に紙媒体で初めて製作し、25年から公立小に配布を始めた。その内容を巡り、一部では扱いに戸惑う声が上がる。
24年版の冊子は「なぜ自衛隊は必要なの?」との問いで始まり、「日本の独立や平和、安全を守る」「『日本を攻撃するのはやめておこう』と思わせることが必要」として「抑止力」の重要性を説く。
ロシアのウクライナ侵攻に関しては「ウクライナは、どうしてロシアに攻め込まれたの?」との問いで「ウクライナのロシアに対する防衛力が足りなかったことがあります」と説明。この記述は、22年に閣議決定された安全保障関連3文書の「国家防衛戦略」に、日本に抑止力が必要な理由を挙げる形で書かれている。
日本周辺の状況について、中国は「威圧的な活動を続けている」、北朝鮮は「核開発やミサイルの日本上空通過などは日本にとって大きな脅威」、ロシアは「北方領土を含む日本の周りで活発な活動」などと、具体的な国名を挙げて解説する。
防衛省は「必要に応じて小学校の図書館を含むさまざまな場面で活用していただければ」と希望し、都道府県レベルの教委に冊子の配布を相談した。
長崎市教委によると、長崎県教委から連絡があった後の5月下旬、防衛省側から各校に10冊ずつ送られた。同じ時期に市教委が白書の内容を確認し、周辺国に関する記述を把握した。
長崎市は中国など他国との交流が歴史的に盛んな地で、小学校にはさまざまなルーツを持つ児童が通う。市教委の担当者は「教師の説明なく子どもたちが冊子を見た際、傷ついてしまう子が出ることは避けたかった」と校長宛てにメールを送った理由を説明する。
市内のある小学校は、職員室の書類立てに冊子を置いている。同校の管理職の一人は「(冊子の)内容のすべてを子どもの読み物として提供はできない」と語った。
6年の社会で、内閣のはたらきを学ぶ際には、防衛省も内容に含まれる。この管理職は「子どもの疑問に答える時の教師側の資料」として冊子を活用する可能性は認めつつ、「未成熟の子どもたちに読み物として冊子をまるまる見せてしまうと、誤解を招きかねない」と話す。
防衛省によると、冊子は全国約2400校へ計約6100冊配布。公立小全体の約1割に当たり、印刷と発送には計約130万円を要した。
配布を巡り、毎日新聞が都道府県教委に取材したところ、配布を了承したある自治体教委は「ウクライナ侵攻などの内容について(防衛省側に)懸念を伝えたが、防衛省から『閣議決定された国の公式見解である』と回答があり、送付を拒否するのは難しいと判断した」と説明。教育行政の関係者の戸惑いが浮かんだ。【日向米華、尾形有菜】
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