運営について相談する保護者=札幌市白石区のさくらんぼクラブで2025年10月17日、今井美津子撮影

 近年、学童保育所の利用児童数は増加している。一方、ハード面の整備が追いつかず、人手不足も慢性化している。子育て支援が進む中、学童保育所の現状を取材した。

 「最低賃金が上がるので、指導員さんの時給について相談したいと思います」。今年9月、札幌市白石区の「さくらんぼクラブ」で保護者数人が話し合っていた。

 さくらんぼクラブは札幌市などの補助金を受け、保護者会が運営する放課後児童クラブ(学童保育)だ。

 「指導員」と呼ばれる放課後児童支援員ら職員の採用や労務管理、広報活動などを保護者らが担う。

 この日は最低賃金引き上げを前に、保護者会の役員が給与案を検討していた。後日、職員と個別の面談も行い、保護者会に諮るという。

 さくらんぼクラブには主に近隣の小学校3校の1~6年生約30人が在籍する。平日は18人程度が訪れる児童に対し、職員は3~4人が出勤。サイクリングやキャンプなどのイベントも多く、小学校卒業まで通う子がほとんどだ。

公設学童に向かない子の受け皿にも

 市内には同様の民設の放課後児童クラブが約40施設ある。

 児童1人当たり毎月1万~1万5000円程度の保育料がかかる施設が多いが、子供の人数が多い公設の放課後児童クラブと比べて職員の目は行き届きやすい。

 民設のクラブに子どもを通わせる保護者(41)は「指導員さんは子ども一人一人と向き合ってくれて、育児の相談にも乗ってくれる。保護者会の活動を通して、困った時に相談できるママ友もできた」と話す。

 ただ、クラブの先行きに不安も感じる。「入所してくれる人を増やしたくても、保育料がかかるし、保護者の負担が多いからと敬遠されてしまう」と打ち明ける。

 さくらんぼクラブなど民設のクラブ約30施設が加盟する「札幌市学童保育連絡協議会(市連協)」によると、放課後児童クラブに通う市内の小学生の96%が無料で利用できる児童会館に登録する。

 19年に幼保無償化が始まると、有料の民設のクラブは児童確保に苦戦し、閉所した施設もあった。

 クラブの登録児童が20人を下回ると補助金が大幅に減額されるため、ある保護者は「今の財政状況が悪くなくても、数年後にはどうなるか分からない。児童会館に向かなかった子の受け皿にもなっているのに、このままでは民設の学童保育所が淘汰されるのではないか」と話す。

問題発生で訴訟リスク「覚悟必要」

萩原和也さん=東京都台東区で2024年11月23日午前11時56分、今井美津子撮影

 一方、保護者会運営の放課後児童クラブに対し、問題が発生した場合の対応を懸念する声もある。

 放課後児童クラブの運営をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」(埼玉県)の代表で、社会保険労務士の萩原和也さんは「クラブ側の重大な過失で子どもや職員、第三者に被害があった場合、クラブの責任者が対応する必要がある。訴訟になる可能性もあり、クラブの代表者は保護者のボランティアであっても責任を負う覚悟が必要だ」と指摘する。

 萩原さんは保護者の負担軽減のため、クラブ経営には専従の職員を置き、希望する保護者には生活環境を整える「運営」に参加できる仕組みを提案する。

 全国学童保育連絡協議会が24年度に行った調査では、放課後児童クラブの運営主体は「公営」が全体の26%と最も多かった。

 保護者会と保護者会を主体とした「地域運営委員会」は14年度に24%を占めたが、24年度には13%に減少。代わりに14年度に2%だった民間企業が24年度は18%と大幅に増加した。

 ただ、萩原さんは「保護者が単なる利用者に過ぎないクラブが多数を占めつつある」として、「保育の質向上には保護者も関わっていく点は続けていくことが適切だ」と強調する。

 函館市などでは複数の保護者会運営のクラブが集まってNPO法人を設立し、運営を一括して担う例もある。

林亜紀子・札幌市学童保育連絡協議会事務局次長=札幌市北区で2023年4月21日、今井美津子撮影

 26年12月には子どもと接する仕事に就く人の性犯罪歴の確認を事業者に義務付ける「日本版DBS」の運用が始まり、さらに複雑な対応が求められるようになる。

 市連協の林亜紀子・事務局次長は日本版DBS開始に伴う行政の支援拡充を求めつつ、「保護者と指導員が情報共有することで子どもへの理解や保護者と指導員の相互理解が深まり、指導員のモチベーションが上がることにつながる」と話した。【今井美津子】

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