
自殺を話題にすることをタブー視せず、SOSの合図を決めておこう――。
夏休み明け前後に子どもたちの自殺が増える傾向がある。学習塾やフリースクールを経営する「花まるグループ」(さいたま市)代表の高濱正伸さんと、顧問で精神科医の蟹江絢子さんに、学校生活への不安が強まり、追い詰められてしまう子どもたちに対し、具体的な対応策について聞いた。
24年の小中高生の自殺は過去最多
厚生労働省によると、2024年に自ら命を絶った小中高生は過去最多の529人(前年比16人増)。男女別では、男子が239人(前年比20人減)、女子は290人(同36人増)で、初めて女子が男子を上回った。
高濱代表は夏休み明けに子どものメンタルが崩れてしまう背景として、「両親が共働きなどで子どもを十分に見られない中で、規則正しい生活リズムが崩れてしまうことが大きいと思います」と指摘。自殺を防ぐ対応策として、東大医学部付属病院で児童精神科医を務め、2児の母でもある蟹江さんは「一度、自殺をテーマにして子どもと話してみてはどうでしょうか」と提案する。

「タブー視しないで」
自殺についての会話はタブー視されがちだが、WHO(世界保健機関)は、自殺にまつわる迷信の一つに「自殺について語ることは良くない考えであり、自殺を助長するものと捉えられてしまう可能性がある」を挙げており、蟹江さんも「身近な人を例に、自死する可能性があるような言い方は避けるべきですが、話題にすることで自殺が増えることはありません」と話す。
具体的には「有名人が自殺について話していたんだけど……」「『自殺を考えたけど相談してよかった』という人もいるみたいだよ」などと第三者の話題から入ったり、戦争や生と死にまつわる話から始めたりして、「自殺についてどう思うか」「死にたいと思ったことはあるのか」という話題につなげて会話するのがいいという。「さらっと聞いてみて、気軽に話せるイメージを持ってもらうことは大切です」と話す。
SOSの打ち明け方
また、蟹江さんは「SOSの出し方を知ることも大切です」と指摘し、「死にたい気持ちが募ったとき、どうやって打ち明ければいいのかを決めておいてください」と話す。「死にたい」と直接口にしづらければ、「緊急事態」「死ぬほどつらい」といった言葉でもよいという。
その上で、人生でうれしかったエピソードを子どもに聞いてみることを勧める。ポジティブなエピソードの共有は、その後、子どもが落ち込んだ時に思い出してもらい、気持ちを軽くする効果が見込める。

何気ない会話が支えに
実は、高濱さん自身も小学5年のころ、生きているのがつらい時期があった。容姿をからかわれるなどいじめを受けていたからだ。そして「限界だ」と思った時、思い出したのが母親の言葉だった。
「親より先に死なないことが一番の親孝行だよ」。何気ない親子の会話だったが、生きる道を選ぶことができた。
蟹江さんは「言葉にすることは大事。『あなたを大切にしている』『つらいときは必ず味方になる』など、当たり前だけど普段言えてないことを、この時期だからこそ伝えてください」と呼びかける。
「みんなの問題」として
さらに「自殺は子どもを持つ保護者だけではなく、『みんなの問題』として考えてほしい」と訴える。花まるグループでも、「親にも言えないけど……」と学習塾の講師に悩みを打ち明ける子どもがいる。
「SOSを受け止められるのは家族や先生だけでなく、親戚や地域の人、塾の先生などかもしれません。ひとごとではない。みんなの問題として考えてもらえると、苦しむ子どもが減るのではないでしょうか」【尾崎修二】
【相談窓口】
・24時間子供SOSダイヤル
いじめやその他の悩みについて、子どもや保護者などからの相談を受け付けています。原則として電話をかけた所在地の教育委員会の相談機関につながります。
0120・0・78310=年中無休、24時間。
・子どもの人権110番
「いじめに遭っている」「家の人に嫌なことをされる」など、先生や親には話しにくい相談に法務局の職員や人権擁護委員が応じます。
0120・007・110=平日の午前8時半~午後5時15分
・こころの悩みSOS(https://mainichi.jp/shakai/sos/)
悩みを抱えた当事者や支援者への情報のほか、相談機関を紹介した毎日新聞の特設ページです。
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