高橋みなみさん=Mama&Son提供

 多くの学校で夏休みが明け、授業が再開する9月1日。学校に行くのがつらい子にとっては、久々の登校ということもあって心理的な負担が大きくなる日でもある。

 アイドルグループ「AKB48」の元メンバーでタレントの高橋みなみさん(34)も、かつてはそんな一人だった。小中学校でいじめを経験したからこそ、いま子どもたちに届けたいメッセージがある。【聞き手・木原真希】

給食トラブルであだ名

 幼少期に気管支ぜんそくを発症し、体が弱い子でした。小学校入学後も、季節によってはぜんそくの発作の影響で学校を1週間ほど休むこともありました。

 同級生の目には、体が弱くて、たまにいない子というちょっと特殊な感じに映っていたかもしれません。

 1、2年時の担任の先生が厳しく、給食を半分以上食べないと帰れませんでした。食も細く、好き嫌いも多かったため給食の時間はかなりきつくて。ある日、苦手なミニトマトを食べた時に嘔吐(おうと)してしまったんです。

 それを見ていたクラスの男子にからかわれ、嫌なあだ名をつけられました。それがクラスで広まって、学校に行くのがすごく嫌になりました。

 夏休みなど長期の休み明けは余計につらかったですね。でも、親には「いじめられて学校に行きたくない」と言えませんでした。

 その代わり、せきをすれば(ぜんそくだと思って)「休む?」と言ってもらえるんじゃないかと考え、仮病を使ったこともあります。それくらい学校がつらかったです。

少年漫画で現実逃避

 給食が食べられない時は給食袋に隠して持ち帰り、帰宅するとランドセルを背負ったままトイレに直行していました。親にバレないようにトイレに流していたのです。

 そんなことを繰り返していると、親に「なんかおかしくない? どうしたの?」と事情を聴かれ、説明すると「学校行かなくていいよ」と言ってくれました。いま振り返ると親へのSOSだったのかもしれません。

 学校に行くのがつらい時も、休んでいる間も、「ONE PIECE(ワンピース)」や「SLAM DUNK(スラムダンク)」など、好きな漫画を読んでいる時は学校のことを忘れられました。

 少年漫画は勇気や困難を乗り越えることがテーマになっているものが多く、自分と違う人生を見ているような気持ちで、現実逃避できました。

 最終的にいじめてきた子たちと和解して登校することもできました。3年生に進級したタイミングで担任の先生が代わったこともあり、学校に行きやすくなったことを覚えています。

 通っていた小学校は1クラスしかなく、卒業までクラス替えがなかったのですが、新しい担任の先生のおかげでクラスの雰囲気も変わり、居心地よく感じました。環境が変わることって、こんなに大事なんだなと思いました。

芸能活動を言い出せず無視され

 中学2年の時にAKB48のオーディションに合格し、レッスンに通う日々が始まりました。でも、当時はAKBとしての活動が始まったばかりで、認知度が低かったこともあり、仲の良かった友人グループに何と伝えたらいいかわからず、芸能活動が始まったことを言い出せませんでした。

 一緒に遊ぶ時間が減り、ある日学校に行くと無視をされるようになりました。きちんと説明し、数カ月後には仲直りしましたが、3対1の構図はとてもつらかったです。

 2013年からいじめについて考えるNHKの教育番組「いじめをノックアウト」のMCを担当していました。過去の経験を公にするようになったのはこの頃からだと思います。

 隠していたわけではないですが、つらい思いを抱えている子どもたちに「たかみな(高橋さんの愛称)にもそういう経験があったんだ」と知ってもらうことで、「あなたは独りじゃないよ」というメッセージを伝えられたらと思い、話すようになりました。

高橋みなみさん=Mama&Son提供

学校に行けなくても大丈夫

 いま振り返って思うのは、学校や教室はすごく狭い世界だということです。私もそうでしたが、子どもの頃は、学校や教室が世界の全てのように感じてしまう子どもが多いのではないでしょうか。

 私は社会に出たのが相当早かったこともありますが、AKB48など学校以外のところでまだ出会ったことがない人がたくさんいるということに気付くことができました。

 「学校に行けなくても、学校でうまくいかなくても悪いことではない。大丈夫」と思えるようになりました。学校以外の思いもよらないところで、気が合う子に出会えるということもあるかもしれません。

 つらい思いを抱えている子どもたちに伝えたいのは、まずは自分の心を守ることを第一にして、「心が壊れるほど頑張らなくていい」ということです。

 過去を振り返っても、子どもの時はストッパーがなく、無意識に頑張りすぎちゃうなと。「お母さんやお父さんに心配かけたくない」っていう気持ちもあると思います。でも親御さんは子どもに無理してまで学校に行ってほしいと思っていないはずです。

SOSのサインを見逃さないで

 あなたにとっての居心地の良い場所が、見つかることを願っています。芸能の仕事に就いたことで外の世界に居場所を持てたのは特殊かもしれませんが、学校以外にも選択肢があることを知ってほしいです。

 例えば習い事や近所の児童館、いまは24時間匿名で電話や交流サイト(SNS)でも相談できる場所もあります。他人の方が相談しやすいという人もいるかもしれません。

 私もそうでしたが、子どもは悩みを親に言いづらい代わりに、何かしらSOSのサインを出していると思います。表情や言動など、「いつもと違うな」と思うことがあるはずです。それを見逃さないであげてほしいですね。

 私は小学生の頃から歌うことが好きで、友達に「歌うまいね」と褒められたことがうれしくて歌手を目指しました。

 子どもたちにも絵を描くことだったり、漫画を読むことだったりなんでもいいので自分が好きなことを見つけて、そこをどんどん深めていってほしいですね。何か自分が没頭できるものがあることで、救われたり前向きになれたりすると思います。

たかはし・みなみ

 1991年生まれ、東京都八王子市出身。2005~16年、AKB48の1期生として活動し、初代総監督に就任。13年からはNHKの教育番組「いじめをノックアウト」のMCを務めた。

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