福島県立医科大学が、人工知能(AI)で糖尿病患者の将来の重症化リスクを予測するウェブアプリ「糖尿病未来予測ナビ」を開発した。5月から同大のホームページ上などでURLが公開され、無料で利用できる。従来とは異なる五つの型に患者を分けることで、個人の特性に応じた医療につながると期待される。
同アプリはパソコンやスマートフォンで使うことができる。年齢や血糖値、体格指数(BMI)などのデータを入力すると、患者がどの型に当てはまるか10秒前後で表示される。型の違いによって将来の透析導入リスクが違うことが分かっており、従来はひとくくりにされがちだった2型糖尿病を細分化し、病態の違いを踏まえた予測を可能にした。
AIの開発については千葉大と、データベースの活用では国立健康危機管理研究機構と協力。システム開発は郡山市のIT企業「エフコム」と連携した。
背景にあるのは、2018年にスウェーデンの研究グループが提唱した糖尿病の新たな分類法だ。現在、糖尿病は1型や2型などと分類されることが一般的だが、特に2型糖尿病は多様で、最適な治療が人それぞれ違うことが課題だった。これを、自己免疫型やインスリン欠乏型、インスリン抵抗性が強い型など五つに分けることで、最適な治療を選択しやすくなることが示唆された。ただ、分類には特殊な指標が必要で、日常診療での活用は進んでいなかった。
県立医大のグループは、日本糖尿病学会が運営する国内最大級の糖尿病患者の診療録データベース「J―DREAMS」にある約12万人分のデータを活用。アプリに入力する情報の一部が欠けていても他のデータから補完して推定できる技術を開発した。データが多い方が精度は上がるが、必須となるのは年齢や血液検査の結果など四つで、使いやすい設計とした。
解析では、同様に肥満を伴う糖尿病でも、特にインスリン抵抗性が強い型では8年後の透析導入リスクが4%であった一方、別の型では0・5%と大きな差がみられたという。
糖尿病は患者ごとに進行や合併症の現れ方が大きく異なるが、これまでは腎機能の低下やたんぱく尿の出現といった「変化が起きてから」対応するケースが多かった。研究チームはこうした「後手の医療」からの転換を目指し、診断時点の情報から将来のリスクを先回りして把握する手法を構築した。それにより、早期からの治療強化や生活指導につなげられる可能性がある。開発に取り組んだ県立医大糖尿病内分泌代謝内科の島袋充生主任教授は「多くの人が治療をしていないのが現状だが、早めに治療すれば透析が必要になるのを防げる可能性は高い」と話す。
一方で、課題はある。医療現場への浸透や診療報酬への位置付けはまだこれからだ。また、五つの型への最適な治療法も確立しているとは言えない。
しかし、日本糖尿病学会も、2型糖尿病について「病態が多様」と課題を認識し、個別化医療の必要性を唱えている。従来の枠組みを見直し、データに基づいて細分化する流れは確実に進んでいる。県立医大が3月24日に開いた発表会見にオンラインで参加した同学会の植木浩二郎理事長は「今後、質の高いデータが蓄積する中で分類ごとの最適治療が確立されるだろう。個別化医療の道を開くものだ」と期待する。
島袋教授は「新しい分類はまだ浸透していないが、このアプリで判定のハードルが大きく下がった。これをスタートに新しい糖尿病医療が始まると確信している」と話した。【松本光樹】
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