クローズアップ現代「水漏れ・詰まりで高額請求!? 増加するレスキュー商法トラブル」

【NHKプラスで見られます】9月2日 午後7時30分 ~ 配信開始予定
(9月9日 午後7時57分まで配信)
注意喚起や行政処分が出された業者の広告

これは、国が注意喚起を出したり自治体が業務停止命令などの行政処分を行ったりした業者の広告です。“レスキュー商法”トラブルの多くは、こうした安値をアピールする広告が入り口になっています。

トラブルにあったという男性を取材すると、トイレが詰まり、急いで直したいと焦る中で、スマホで業者を検索したといいます。一番上に表示された業者の「1480円~」という広告が目にとまり、他の業者の料金と比較するなどの検討をしないままこの業者を呼びました。修理したあと実際に請求された金額は、48万円でした。

男性が見たWEB広告と領収書

男性は、安さをアピールする広告を見て依頼したのに、想像していた金額より高額の支払いをすることになり、「後から思うと、やめておけばよかった。非常に後悔している」と話しました。

業者探しはまずひと呼吸 複数業者比較

龍谷大学法学部 カライスコス・アントニオス教授

消費者トラブルに詳しい龍谷大学法学部のカライスコス・アントニオス教授によると、「まずひと呼吸」することと「複数の業者を比べる」ことが、業者探しの段階で気をつけるポイントだといいます。

龍谷大学法学部 カライスコス教授
「ひと呼吸おき、『今から自分がとる行動は正しいか』を冷静に考えてみることが大事です。本当に今すぐ直す必要があるのか。例えば、トイレの詰まりなどの場合、一晩公衆トイレでしのげないかなど可能性を検討することが大事です。そして、どうしても業者に修理を頼まないといけない場合でも、複数の業者のサイトを見て料金を確認して、あまりに安すぎる場合は注意することなどが大切です。また、あとからトラブルになったときに備えて、どういう広告を見たのか、写真やスクリーンショットを残しておくことも大事です。あとで確認しようと思っても、広告表示が変わってしまっている可能性があるからです」

さらに、カライスコス教授は、水漏れなどの困りごとが発生すると焦ってしまうことを見越して、普段から相談できる窓口を確認しておくことが大事だといいます。

龍谷大学法学部 カライスコス教授
「水漏れが起きているさなかに冷静になることは難しいのも事実です。そうしたことを見越して、どこに相談できるか普段から考えておくことが大事です。自治体に届け出て指定を受けている業者や信頼できそうな業者が自宅近くにないか把握し、その業者について調べておくこともできます。心理的に余裕があるときであれば、周りの人に聞いておいたり、複数の業者のホームページやクチコミなどを比較して十分に検討したりすることもできます。また、賃貸マンションなら大家さんを介して業者に修理の依頼をすることもできますし、持ち家でも不動産会社に相談できます」

修理段階の落とし穴「知識の格差」

次は、業者が来て修理を行う段階での落とし穴について。

私たちは日常的にトイレの詰まりを経験することはありませんが、業者はトイレの詰まりの解消を業務として日常的に行っています。

知識の格差がある中で、「詰まりを直すには特殊な作業が必要」などと言われ、必要な作業かどうかわからないままに作業を依頼してしまい高額請求されるケースがあります。

密室化を避ける 作業内容を記録する

カライスコス教授は、修理の段階のポイントとしてこの2点を指摘します。

龍谷大学法学部 カライスコス教授
「悪質な業者は、修理が必要な箇所やその理由を隠して、本来は必要のない作業で請求を高額にしたり、あいまいな料金説明のまま作業を進めて後から高額の請求書を出したりすることが考えられます。そうしたことを避けるために、業者任せにせず、修理が必要な箇所や作業内容を自ら確認することが大事です。作業開始前に、どれくらいの金額になるかなど料金について詳しい説明を求めることも大事です。そこで納得できなければ、作業を進めることを断ることも検討してください。また、あとから確認・検証できるよう記録に残すことが大切です。相手の説明や作業の様子を『写真や動画などの記録に残していいですか?』と言うと業者へのけん制になりますし、後ろめたいことがない業者であれば拒まないはずです」

支払い段階の落とし穴「現金払い」

私たちが取材したトラブルの多くで、消費者は業者に現金払いを求められていました。中には、「手元にお金がないならATMで下ろしてくるように」と促されたというケースもあります。

また、現金で支払ったあとに返金を求めるクーリングオフの申請をしたが、業者と連絡がとれなくなり打つ手がなくなったというケースもありました。

では、支払いの段階で何に注意をすればいいのか。

カライスコス教授は、契約内容や金額に納得できない場合は、契約書の同意欄にチェックせず、現金で支払わないことがポイントだと指摘します。

龍谷大学法学部 カライスコス教授
「契約時や支払時に、書類の同意欄にチェックを入れたり、署名をしたり、現金で支払ったりすると、消費者も契約内容に同意していることになります。事前の説明とかけはなれた金額を請求されたり、十分な説明がないまま作業が進められ高額の請求を受けたりするなど、内容に納得できない場合は、同意欄にチェックせず、支払いを保留するという行動をとることが大事です。『相手に来てもらっているから』とか『詰まりは直っているから』という負い目を感じて支払ってしまうという心理もわかりますが、納得できない場合は同意欄にチェックせず、現金払いではなく後日振り込みにしてもらうことが大切です。ひとりで断るのが難しい場合は、迷わず家族や知人に電話して相談すること。第三者に業者とのやりとりの間に入ってもらうことで、支払いを保留しやすくなると思います」

トラブルにあってしまったら…

それでもトラブルにあってしまったら、どうすればいいのか。

カライスコス教授は、各地にある消費生活センターの番号「188」に電話して相談することと、クーリングオフの可能性を探ることが大事だといいます。

龍谷大学法学部 カライスコス教授
「“レスキュー商法”のトラブルの場合、クーリングオフを申請するなど返金を求めることができる可能性があります。そうした際に相談に乗ってくれるのが各地にある消費生活センターです。もちろんすべてのトラブルが解決できるわけではありませんが、消費者からの相談が積み重なれば行政が業者の調査を行い処分を行う場合もあります。消費者が声を上げることも大切です」

トラブル増加の理由 責任問う難しさ

こうした“レスキュー商法”トラブルは近年増えていて、昨年度国民生活センターに寄せられた相談件数は、過去最高の8797件。10年前の4倍に膨れあがっています。

トラブルが増えている理由の1つは、業者の責任を問うことが難しいこと。東京都管工事工業協同組合の永島英俊理事は、こう指摘します。

東京都管工事業協同組合 永島英俊理事
「トラブルの1つのパターンとして、『ポンプで詰まりがとれなかったので、特殊な機械で作業します』などといわれて請求金額を増やされていたというものがあります。業者が『詰まりがとれない』とうそをついて必要のない作業を行い、高額請求している可能性もありますが、詰まりが解消されたあとだと、作業前の様子がわからず、その必要性を確認することは難しいといわざるを得ません」

広がる集団訴訟の動き

こうした中、今、修理業者を相手にした集団訴訟が起きています。

その1つを担当する平田元秀弁護士。トラブルにあった消費者13人の代理人となり、2022年に神戸地方裁判所姫路支部で、業者に損害賠償を求める集団訴訟を起こしました。

平田元秀弁護士
「兵庫県内では当時“レスキュー商法”トラブルの相談が増えていて、その中に多くの人が同じ業者に依頼してトラブルにあったと事案がありました。個別に返金請求などをすることにも限界があり、当事者を集めて集団訴訟を起こすことにしました」

争点(1) 個別の作業員の不法行為

裁判では、個別の作業員の請求内容が不法行為にあたるかどうかが争点の1つになりました。その立証にあたって鍵となったのが、被告側の作業員のうち数人が刑事事件で逮捕され取り調べを受けた際の記録でした。

平田さんら弁護団は、警察から記録の提供を受け、裁判の証拠に用いました。裁判の記録によると、逮捕された作業員の1人はトイレの修理を依頼した客に本来必要のない作業を「必要だ」とうそをつき、高額の請求をしていたということです。

作業員Aの供述調書より抜粋
「この前もタンクレストイレの工事をしたところですと言うと、■■さんはみるみる不安そうな顔になっていきました。私はこのタイミングを逃がすことなく、■■さんに、修理するとなるとタンクレス部分を全部取り替える必要がありますよと嘘をつき、■■さんに考える余裕を与えないようにしました」
「私の嘘と演技に騙されて、トイレを全部交換することを承諾させました」

この作業員は自身を訴えた当事者に契約代金などを弁済しましたが、不法行為は行っていないと陳述した作業員もいます。

作業員Bの陳述書より抜粋
「当時、私1人では対応が難しいことから応援の職人も呼んで、作業をして、現実に、水は出るようになっており、必要のない作業をして工事代金を受け取ったなどという主張には納得できません」

作業員Cの陳述書より抜粋
「私は、行っていない作業を契約書に書いたことや不要な作業を行った事は、今までに一度もない」

争点(2) 経営者の不法行為

もう1つの争点は、経営者の責任を問えるかどうかです。

平田さんら弁護団は、裁判を起こした当初から、“レスキュー商法”が組織的に行われトラブルが広がっているのではないかという問題意識を持っていました。

WEB広告などを出して集客し、提携する作業員に仕事を割り振っていた経営者の責任を問うにあたって、警察から提供を受けたもう1つの資料、業者社長と提携作業員らのグループラインのやりとりの記録が鍵となったといいます。

平田元秀弁護士
「グループラインでのやりとりや供述調書を読み進めると、作業員が経営者に売り上げの6割を払っていたことや、経営者が客先で稼ぐ単価を上げるよう厳しいノルマを課し、ノルマを守れない作業員は契約を切ったり作業員の取り分を減らしていたりしていたことが確認できました。さらに重要なのは、必要のない作業を行って高額の請求をする手法などについて組織内で共有していたということがわかってきたことです。こうした組織的な構図の問題点を立証することが、今回の裁判だけでなく、今後のトラブルの拡大を防ぐためにも重要だと考えました」

平田さんら弁護団は、膨大なグループラインのやりとりを手分けして解読し、経営者がノルマを課していたことや、作業員の不法行為に関わっていたことを立証するための証拠を積み重ねました。こちらは、ノルマに関連するメッセージです。

グループラインのやりとりの記録より抜粋
■経営者

「単価4万切り出したらヤバいです!3万以下はアウトです!」
「■■君工事混じれば単価10万ほぼ確実。■■君前よりちょっと失速ですが合格ライン。パス率注意。■■君炸裂中。クビ回避ほぼ確定」
「■■さん、■■君、特に頑張りましょう。ノルマ達成して40%持って帰ってください!」

こちらは、営業の手法などについて、経営者や作業員らが投稿していたメッセージです

グループラインのやりとりの記録より抜粋
■作業員
「詰まり行ったら詰まってなかってどうしようかってなったんですけど屋外洗浄で取れました」
■経営者
「洗管30万で終わらせるよりマス工事30万で取って確実に伸ばせる勝負に持っていくクセをつけてたから確実に単価はのびる」
■経営者
「利益だけの事を考えるとイケイケのやりっぱなしを貫いて、裁判までなった分だけ対応していくのが1番お金は残ります」
「法律上金額の高い安いは問題ありません。極端な話ですがパッキン交換500万円でも客が了承すれば良いです」

平田さんら弁護団は、こうした証拠を積み重ねて、経営者側にも不法行為があると主張しました。

一方、経営者側は、グループラインのやりとりは仲間内の悪い冗談の言い合いだった可能性が高いとしたうえで、経営者は個別の作業員に対して違法行為の指示や指導を行っていないと主張しました。

経営者の陳述書より抜粋
「私が協力業者に違法行為を指示したことなどありません」
「広告会社の指摘にしたがって、赤字にならないように、単価を上げるという要望は協力業者に伝えていましたが、それは特に、依頼の多かった古い建物などでは水回りの経年劣化が進んでいることがままあるので、対症療法的な工事にとどまるのではなく、他にも相当に劣化しているところの点検・交換等まできちんと行うことにより、工事対象を増やすことで単価を上げることを求めていたつもりです」

判決は作業員と経営者の不法行為認定

神戸地方裁判所姫路支部

3年におよんだ裁判を経て、ことし3月、神戸地方裁判所姫路支部で1審判決が出されました。

その中で裁判所は、まず、個別の作業員それぞれの不法行為を認定しました。そして、経営者についても、グループラインのやりとりなどから総合的に判断し、「自ら、協力業者に対し、契約代金を高額にするための手法を指導していることが明らか」だとして、「共同不法行為責任」を認定しました。

経営者側は控訴し、不法行為の認定をめぐり高等裁判所で争う姿勢です。

経営者側の控訴意見書より抜粋
「共通被告らと協力業者の関係性、協力業者の刑事事件における供述内容を踏まえても、被告■■の発信した(中略)メッセージは、いずれも、その文言から、直接、組織的に本件手法に沿った契約の締結をするように指導・助言等したと認定できる内容ではない」

集団訴訟を担当した平田弁護士は、今後の裁判が持つ意味合いを次のように考えています。

平田元秀弁護士
「1審判決は、消費者の窮状や焦りにつけこむ悪質な“レスキュー商法”を行うこと自体が違法だと認められ、その中で経営者と作業員それぞれの不法行為が認められた点で、画期的だと感じています。このトラブルは線引きがあいまいで法的に追及するのが難しかったのですが、高裁で違法性をより明確に判断する判決が出れば、あとに続くほかの裁判にも活用できる1つの類型になる可能性があります。トラブルを防いでいくためにも、よりよい判決をとることを目指しています」

“レスキュー商法”トラブルをめぐり、どのような判決が出されるのか。大阪高等裁判所での弁論は、秋以降に行われる見通しです。

取材後記

今回多くのトラブルの当事者や関係者に話を聞かせていただきました。その中で、トラブルに巻き込まれたと訴えても、消費者には修理内容の把握が難しく、業者に問題があったかどうかをあとから確認することは非常にハードルが高いと何度も感じました。こうしたトラブルについて司法はどのような判断をするのか、見守りたいと思います。

(9月2日 クローズアップ現代で放送予定)

コンテンツ制作・第2制作センター
クローズアップ現代班
ディレクター
吉田宗功
消費者トラブルや公益通報について取材

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