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<たっぷり寝ている人だけが長生きするとは限らない。時計遺伝子とは? 最新研究が示す「眠りの真実」について>

長寿遺伝子発見者による、最新研究と衝撃の提言書『SuperAgers スーパーエイジャー 老化は治療できる』(CEメディアハウス)の第8章「時計を止める」より一部編集・抜粋。

重要なのは寿命(ライフスパン)ではなく、健康寿命(ヘルススパン)...。


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睡眠については?

睡眠は、食事や運動とともに健康の3つの秘訣とされることが多い。だから、十分な睡眠と長寿に関係が見られるだろうと期待したが、わたしたちの研究では見られなかった。

被験者のセンテナリアン[百寿者/100歳以上の人]のなかには、夜に平均8時間寝て昼寝をする人もいる。かなりの睡眠時間なので、それが長生きの秘訣かもしれないと思ったが、やがて、昼寝するのは夜によく眠れないからだとわかった。

するとイスラエルからの客員教授ラヴィ・クラインが、わたしたちの睡眠データを分析し、別の興味深いことを発見した。

被験者のセンテナリアンは、睡眠障害に関係する病気を防ぐ長寿遺伝子を持っているらしい。つまり、よく眠っても眠らなくても、そういう病気にはかからないのである。

センテナリアンの子や対照群のなかでは、かなり多くの人が定期的に睡眠障害を起こしている。そして対照群の多くには糖尿病、心臓血管疾患など、睡眠不足に関係する病気があるが、センテナリアンの子にはない。

つまり、長寿遺伝子は睡眠障害そのものを防ぐわけではないが、最悪の影響を防ぐのである。

でも長寿遺伝子を持っていないふつうの人は、できるだけよく眠って、睡眠障害や睡眠不足から発生する病気を防ぐべきだ。

2017年、ジェフリー・C・ホール、マイケル・ロスバッシュ、マイケル・W・ヤングは、ミバエによる研究で体内時計の働きを明らかにしたことで、ノーベル生理学・医学賞を授与された。

ハエ、魚、カエル、植物、そして人は、昼か夜かわからなくても、体内時計によって24時間のリズムを保つことができる。


体内時計は「時計遺伝子」によって動かされていて、この遺伝子がオンになるとタンパク質を作る。一定量のタンパク質がたまると、時計遺伝子はオフになる。

だがタンパク質は時間とともに減り、ある量まで減ると、時計遺伝子が再びオンになる。このサイクルがほぼ全身のシステムに影響を及ぼす。

科学者たちは当初、時計遺伝子が脳だけにあるのではないことを発見して驚いた。ハエの体のさまざまな部位に見つかったのだ。今では、この時計遺伝子が体中にあることがわかっている。

脳だけでなく、心臓、肺、肝臓などの臓器がこの遺伝子を持っていて、細胞のひとつひとつにさえある。細胞が決まった時間に修復や分裂をしやすいのはそのためだ。

この発見は明るい展望を示すものである。たとえば投薬や治療をある時間に行えば、他の時間にするより効果があるかもしれないからだ。

また、最良の時計遺伝子を持つ動物は長生きできることもわかっている。

ある研究によると、信頼できる時計遺伝子、つまり、真っ暗でも24時間サイクルを維持する時計遺伝子を持つマウスは、そのように規則的なサイクルを維持できない遺伝子を持つマウスより長生きしたという。

夜勤のために睡眠パターンが崩れる人は、日中働いて夜寝る人より、さまざまな症状や病気のリスクが高いことは、かねてからわかっている。夜勤で働く人は時とともに、潰瘍、心臓病、糖尿病、がんを発症する傾向がある。


また、不眠症、うつ病、認知症にもなりやすい。そしてアンナ・マリア・クエルヴォの研究では、時計遺伝子は自食作用を生ごみ処理機のように強力にし、活性化した自食作用が時計遺伝子を活性化することが示された。

時計遺伝子とその作用がもっとよくわかれば、最大の効果が得られる治療や介入の時間を選べるようになるだろう。その一方で、薬剤開発企業は、睡眠障害や不規則な生活を予防する薬を求めて研究中だ。

DNAが言いたいこと

わたしたちが最初の被験者のセンテナリアン44人の遺伝子配列を調べた際に、彼らは病気に関係する230以上の遺伝子型を持ちながら、その病気になっていなかった。老化の特徴から彼らを守る別の変異も持っていたからだ。

また、認知機能の向上と低下の両方に関係するCETP遺伝子型を観察し、CETPの効果がだれでも共通ではないことも見てきた。

つまり困ったことに、1つの遺伝子型によって決めることはできない。それどころか、人は一度に1つの多様体から作られているわけではないので、1つの遺伝子型だけに注目するのは無意味である。だからこそ遺伝情報を分析するのだ。

わたしたちは非常に多くの多様体からできていて、なかには互いに打ち消しあうものもあれば、増幅しあうものもある。とても複雑なので、遺伝子検査で予測できるとはかぎらない。ただし事前対策を講じるチャンスをくれることもある。

もし遺伝子検査を受けるのなら、必ずその結果をさまざまな背景と関連づけて解釈するようにしてほしい。はっきりした説明やカウンセリングもなしに遺伝子検査を受ければ、不要なストレスのもとになりかねない。


検査によると、わたしには軽い乳糖不耐症のリスクがあるそうだ。チーズを食べてもなんともないし、大好きなので、今も食べているが、乳製品を食べることで消化器系での通過時間が早まり、十分なビタミンDを吸収する暇がないのかもしれない。

いずれにしても、わたしはビタミンDのサプリメントを飲んでいる。効くかもしれないし、害もないからだ。


ニール・バルジライ (Nir Barzilai)
1955年生まれ。アルバート・アインシュタイン医科大学教授。同大学老化研究所設立者。ポール・F・グレン老化生物学研究センター、およびアメリカ国立衛生研究所(NIH)ネイサン・ショック・センター加齢基礎生物学部門のディレクターも務めている。専門は内分泌学。100歳を超える長寿家系を調べ、ヒトの長寿遺伝子を世界で初めて発見した。長寿研究の世界的権威として、全米老年問題研究連盟(AFAR)「アーヴィング・S・ライト賞」など数々の賞を受賞している。本書が初の一般書となる。


 『SuperAgers スーパーエイジャー 老化は治療できる』
  ニール・バルジライ/トニ・ロビーノ[著]
  牛原 眞弓[訳]
  CEメディアハウス[刊]


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