ビオトープをテーマに神戸市が開催するフォーラムに朝日新聞からも参加し、屋上での小さな湿地帯づくりの実践を報告した。現地からは、同じく最近活動を始めた事業所や学校が取り組みを報告。神戸市が郊外の自然と街をつなぐビオトープに着目し、住民の関心が高まっている状況を知ることもできた。
「生物多様性豊かなビオトープ~工場緑地から小学校、庭・ベランダまで~」と題したフォーラム当日の6月14日、神戸市資源リサイクルセンタープラザ棟(西区見津が丘1丁目)の会場にはほぼいっぱいの約90人が訪れた。
会社の指針が後押し
実践報告はまず、神戸製鋼所から。約15ヘクタールある神戸総合技術研究所(西区)の敷地内の一角に約20年前、従業員の憩いの場として整備された池がある。
繁殖するアオミドロやヘドロの対策に追われていたが、生き物が来るビオトープとして活用しようと昨年から管理の見直しに着手したという。
水の出し入れを循環式から、地下水をくみ上げてかけ流す方式に今春、変えた。さらに改善を加えて生物多様性に配慮した池を目指す方針だ。
すでにコオイムシやミズカマキリなども確認されている。報告した総務室の古谷敦志さんは、会社が15年前に生物多様性指針を策定していることを紹介。「ビオトープの活動も、会社の方針に沿って仕事をやっていると堂々といえる。そういうことも大事と思う」と指摘した。
子どもたちの願いかなえる学校ビオトープ
続いて神戸市立千代が丘小(垂水区)からの報告。職員と児童で20年以上前に作ったとみられる池が校庭の片隅にあり、管理されていなかったのを「復活させたい」と、6年生の児童が声を上げた。
たまった土をかき出し、今年初めから改修に着手。「花が咲いてほしい」「カブトムシに来てほしい」といった子どもたちの意見を受け、生き物が隠れられる場所をつくるなどした。
駒田愛子教諭は、職員や子どもたちの生き物への意識の高まりを指摘。将来に引き継いでいくための管理を課題として挙げた。
朝日新聞からも、大分、宮崎、鹿児島で昨夏から、盛岡、青森で昨冬から、屋上などに小さなコンテナのビオトープをつくり、やってくる虫や植物を観察していることを紹介した。
司会の小坪遊・朝日新聞くらし科学医療部次長は、「湿地帯ビオトープ」がSNSなどでも盛り上がっている状況を紹介。会場からも「近所に迷惑がかからないか」「学校のビオトープをこれから復活させるのに注意すべきことは」などの質問が寄せられた。
動植物の調査をしている環境科学大阪の代表取締役で、コメンテーターを務めた佐藤亮さんは、自然の修復機能にある程度頼りながらもきちんと維持管理を続けていくことの大切さ、周囲との情報共有などについて助言した。
ミニビオトープづくりの実演もあった。三つのコンテナにそれぞれ赤玉土と石で土台をつくり、神戸市自然環境課で用意した田んぼの土と植物を配置。子どもたちも次々と寄ってきて、「ここに山をつくる」「石はこっちに置く」など自ら発案しながら積極的に作業した。
同課によると、資源リサイクルセンター屋上に置いたミニビオトープではその後、ウスバキトンボの羽化を確認。土に卵が混じっていたのかメダカ(1匹)も出現したという。イソヒヨドリなどの鳥たちも遊びにきているそうだ。
「里山の自然を街にも」神戸市が取り組み
神戸市は、生物多様性を重視した街づくりの一環としてビオトープに着目し、2024年度から「生物多様性豊かなビオトープ推進事業」に取り組む。
ビオトープを「生きものの生息・生育環境の創出を目的に、地域の生態系に配慮して整備された空間」と定義し、新たにつくったり再生したりして維持管理に努める事業者や地域、学校などを支援するものだ。
市に申し込んで認められた団体は年間5回まで専門家の派遣を無料で受けることができる。フォーラムでコメンテーターを務めた佐藤亮さん(環境科学大阪)も、その専門家の一人だ。
初年度は神戸製鋼所や千代が丘小を含む7団体を支援。25年度も継続して取り組む同社と同校を含めて4団体への支援が決まり、ほかにも相談が来ているという。
神戸市は海沿いに都市が広がるが、郊外には農業地帯が広がり里山も多い。神戸市北区山田町の里山が環境省から自然共生サイトの認定を受けるなど、これまで田んぼや林地での生物多様性保全に取り組んできた。
ビオトープの事業について、市環境局の岡田篤部長(自然環境担当)は「里山の生態系を、これからは街中にもつなげることが大事になってくる。子どもたちの自然体験できる場としても重要」と話す。
「ビオトープが広がっていってほしいと願っている」と、フォーラムに自らも参加した久元喜造市長は「私たちは自然豊かな街で暮らしている。生き物たちが集まってくるビオトープから、周りの自然の姿が見えてくるはず。一緒に考える機会になれば」と述べた。
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。