
現在国内では3つの新幹線の建設が進められている。整備新幹線の北海道新幹線と北陸新幹線、そしてJR東海が建設工事を担当しているリニア中央新幹線だ。各新幹線の建設工事の進み具合、その必要性を述べたい。
まず取り上げたいのはリニア中央新幹線だ。この新幹線は現在品川駅と名古屋駅との間の285.6キロメートルが建設中で、開業後は東海道新幹線の「のぞみ」の役割を果たす。
リニア中央新幹線について多くの人々が関心を抱いている点は「いつ開業するのか?」であろう。もともと2027年(令和9年)と2年後の予定で進められていたが、JR東海はいまのところ「27年以降」としており、はっきりとした開業時期を示していない。一部に未着工の場所があり、また建設工事中の場所でも様々な事情で時間を要しているところがあるからだ。

JR東海によると、契約済みの工区延長といわれる、実際に建設工事を請け負う事業者と契約に至ったところは全体の約90パーセントに達するという。
それから、線路の用地取得率は約85パーセントに達し、さらには発生土活用先の確定状況といわれるトンネルを掘った際の残土受け入れ先が決まった割合は約80パーセントに達したそうだ。
リニア中央新幹線は285.6キロメートルの区間中、トンネルの区間が合わせて256.6キロメートルと約90パーセントを占める。最も長いのは品川駅と神奈川県駅との間にある第一首都圏トンネルで36.9キロメートルだ。
以下第一中京圏トンネル(岐阜県駅―名古屋駅間)の34.2キロメートル、南アルプストンネル(山梨県駅―長野県駅間)の25.0キロメートル、中央アルプストンネル(長野県駅―岐阜県駅間)の23.3キロメートル、伊那山地トンネル(山梨県―長野県間)の15.3キロメートル、御坂笹子トンネル(神奈川県駅―山梨県駅間)の14.6キロメートル、日吉トンネル(岐阜県駅―名古屋駅間)の14.5キロメートル、藤野トンネル(神奈川県駅―山梨県駅間)の10.4キロメートルと、長さ10キロメートル以上のトンネルが8本ある。

開業時期を左右するのは言うまでもなくトンネル、それも距離の長いトンネルの建設工事の進捗状況だ。
最も長い第一首都圏トンネルでは品川駅側から北品川工区、梶ケ谷工区、東百合丘工区、小野路(おのじ)工区と4つの工区に分かれて建設工事が行われている。4工区ではシールドマシンと呼ばれる円筒形の掘削機を前に進ませることでトンネルを掘っていく。
2025(令和7)年9月1日現在、シールドマシンが本格的な掘進として掘削した長さは、北品川工区が約0.3キロメートル、梶ケ谷工区が約2.9キロメートル、東百合丘工区が約1.1キロメートル、小野路工区はまだで以上を合わせて4.3キロメートルとなる。
第一首都圏トンネル(36.9キロメートル)のうち4.3キロメートルと、まだ約12パーセントしか完成していないのだと悲観する必要はない。シールドマシンは本格的に稼働を始めれば24時間休みなく一定のスピードで掘り続けてくれるので、1年間で5キロメートル前後の距離を掘り進めることも夢ではないのだ。
しかも、4工区それぞれでシールドマシンを用いて掘るうえ、工区内でもさらに建設工事を行う場所を分けて複数のシールドマシンが掘り進めるので、すべてが順調ならばあと2年もしないうちに完成するかもしれない。
気になる未着工区間である南アルプストンネルの静岡県内の区間も問題は解決に向かいつつある。トンネル掘削による大井川の水が枯れるという問題はJR東海が立てた対策やその後の調査の進展で、懸念が薄れたとして静岡県の同意が得られた。
残るは環境問題、トンネル掘削によって生じる残土の処理問題だが、これらは他の場所でも解決してきた事柄であるからあまり深刻ではないと思われる。
リニア中央新幹線が開業すると品川駅と名古屋駅との間は最短40分で結ばれるという。現在、東海道新幹線では日中時間帯の「のぞみ」が同じ区間を1時間30分前後で結んでいるから50分ほどの短縮、つまり現在のほぼ半分程度の時間で到達可能となる。

一方でリニア中央新幹線の建設費は7兆400億円で、長大なトンネルを次々に掘ることも含めて無駄な事業ではないかとの声は大きい。だが、「のぞみ」が1時間当たり片道最大12本も走る東海道新幹線は高速鉄道としては非常に負荷が大きな状態だと言ってよい。
開業から60年を経過した東海道新幹線の負担を緩和する手立ては国鉄時代から検討されていた。東海道新幹線のバイパス路線は以前から必要で、逆にまだ存在しないことのほうが異様だ。

利用者にとってリニア中央新幹線はスピードアップというメリットが得られ、鉄道会社側にとってもよいことが多い。列車が線路を占有する時間が短くなれば輸送力が増えるし、車両数の増え方も列車の本数の増え方に比べれば少なくて済むからだ。
リニア中央新幹線は30年代の開業といわれている。開業前と開業後とで日本の姿は大きく変わっているに違いない。
梅原淳(うめはら・じゅん)
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