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<膝や腰、股関節の痛み...。50歳以上の多くが経験している関節痛の予防、生活習慣と運動法について>
関節痛に悩んでいるのは、あなただけではない。「ミシガン大学・健康的な加齢に関する全国調査(University of Michigan National Poll on Healthy Aging)」によると、50歳以上の約7割が関節痛を少なくとも時々経験していることが判明している。
関節とは、骨と骨が接する部分で、その多くは可動し、体重を支え、骨同士が擦れ合うのを防ぐ役割も持つ。しかし、体のあらゆる部位で関節痛が起きることもある。
関節痛があるときに何をすべきか、そしてどうすれば予防できるのかについて、脊椎・脊髄疾患を専門とする整形外科専門医に話を聞いた。
関節痛の原因とは?
マイアミの「スパイン・ドクター(脊椎専門医)」こと、ジョージ・ブルソバニク医師によれば、加齢による関節の変性は避けられず、関節痛は一般的な症状であるという。
しかし、なぜ一部の関節は痛み、また別の関節は痛まないのか。その明確な理由はまだ明らかになっていない。その上で、ブルソバニク医師は次のように本誌に語る。
「最新研究で、メタロプロテイナーゼ(Matrix Metalloproteinases: MMPs)という酵素群が関節痛に関与していることが明らかになっています。メタロプロテイナーゼは、変性によって生じた老廃物を除去する重要な役割を担う特殊な酵素群です。変形性関節症や関節リウマチの初期段階では、これらの細胞活動が活発化し、関節痛の発症に有意な相関関係が示されています」
関節痛の主な原因
クリーブランド・クリニックによると、関節痛の主な原因のひとつは「変形性関節症」だ。
これは関節軟骨──骨と骨の間でクッションの役割を果たす保護組織──が時間の経過とともにすり減ることによる関節炎の一種で、関節の痛みやこわばりを引き起こす。この状態は一般的に45歳を超えると発症する。
関節痛の別の原因である、関節リウマチは関節の腫れや痛みを引き起こし、変形させることもあり、しばしば指や手首に現れる慢性疾患だ。
一方、滑液包炎(かつえきほうえん)もよく見られる要因だ。これは、体内で組織同士の摩擦を減らすクッションの役割を持つ液体で満たされた袋(滑液包)が炎症を起こすもので、股関節、膝、肘、肩などよく動かす部分で多く発症している。
また、肘、かかと、肩など、骨と筋肉をつなぐ柔軟な組織である腱が炎症を起こす「腱鞘炎(けんしょうえん)も関節周囲の痛みの原因となることがある。
さらに、体内の尿酸結晶が関節にたまり、激しい痛みや腫れを引き起こす痛風によっても、足の親指に関節痛が現れることがある。
関節痛はどう予防するのか
軟骨の健康を維持することは、関節痛やこわばりも防ぐことができるとして、ブルソバニク医師は次の7点の予防策を挙げる。
1. 適正体重を維持する
体重が増えると関節、特に膝、股関節、腰に余計な負担がかかり、使いすぎによる損傷リスクが高まる。
2. 定期的に運動する
関節の周辺の筋肉を鍛え、柔軟性と強さを高める低負荷の運動は、関節損傷のリスク低減にも効果的だという。水泳、ウォーキング、サイクリングなどの低負荷の運動は関節に優しく、軟骨の健康維持にも役立つ。
3. バランスの取れた食事を心がける
多様な栄養素を含み、(ビタミンやミネラルを含む)抗酸化物質が豊富な食事は、関節や軟骨の健康に不可欠だ。サーモン、サバ、マスなどの魚類や、一部のナッツ類は炎症を抑えるオメガ3脂肪酸を含んでいる。
4. 正しい姿勢を保つ
正しい姿勢は脊椎(せきつい)や膝を含む関節への不必要な負担を軽減する。特に重い物を持ち上げるときや、筋力トレーニングを行う際に正しい姿勢の維持が、関節の負担やケガを防ぐためにも重要だ。
5. 関節を保護する
スポーツをする人は関節の保護も意識したい。負担がかかる運動をする際は、ニーブレース(膝関節固定帯)など関節を支える保護具を使うとよい。
また、跳躍など高負荷な動作を多く含む運動は避けることが望ましいという。硬い地面に着地を繰り返すと腱に負担がかかり、「ジャンパー膝」と呼ばれる膝蓋腱炎(靱帯炎)、つまり使いすぎによる障害を招く可能性がある。
ストレッチやヨガのような関節の柔軟性と可動域を高める運動を取り入れるとよいという。
6. 水分をしっかり取る
水は関節を潤滑し、軟骨を健康に保つ。十分な水分補給は関節の健康に不可欠だ。
「水分補給は筋肉の維持にも重要です。筋肉が関節を動かすために、すべてつながっています。水はタンパク質やグリコーゲンを筋肉に運び、その発達を促します。強い筋肉は健康な関節をつくり、そのためには適切な水分が必要なのです」(ブルソバニク医師)
7. 使いすぎを避ける
反復的な動作(オーバーユース)は軟骨の摩耗(すり減り)を引き起こし、関節の痛みやこわばりにつながる可能性がある。
「関節を動かすことは良いのですが、正常な可動域の範囲内に保つことが大切です」(ブルソバニク医師)
関節痛がある時にすべきこと
そして、関節痛があるときには、専門的な診断を受けることが最も重要であることは言うまでもない。
「半月板損傷と関節炎による痛みでは、治療アプローチが根本的に異なります。腰でも股関節でも膝でも、痛みの原因を特定しなければ適切な治療はできません」(ブルソバニク医師)
診断を受ける際は、発症時期、(鋭い痛み、刺すような痛み、鈍い痛みなど)痛みの種類、悪化させる動作など、痛みを詳細に伝えることが重要だ。また、過去のケガや手術、慢性疾患の有無などの既往歴など、医師に共有する必要がある。
「診断を受けること以外にも、関節痛を減らすためには生活習慣の見直しが勧められます。体重管理、十分な関節の休養、サポート器具の使用、反復的な動作や悪い姿勢を回避することなどです」(ブルソバニク医師)
関節痛に効く運動
運動は体重管理と関節の柔軟性を保ち、関節周囲の筋肉を強化して関節の安定性を高め、負荷を軽減する。また、運動中には、関節の可動性を高め、関節の摩擦を減らすことも重要だ。
ただし、関節痛がある場合は、関節に負担をかけないことと同時に筋力と柔軟性を高められる運動を選ぶことが重要だとして、ブルソバニク医師は次のように述べる。
「水泳、サイクリング、エリプティカルマシン(フィットネスマシン)などの低負荷の有酸素運動は関節への負担を最小限に抑えることができます。水中運動は関節に負担をかけずに全可動域を使えるため非常に有効です。そして太極拳やヨガのような運動は、穏やかな動きとバランス、柔軟性、筋力の向上を組み合わせたものです」
また、関節痛の予防運動として、大胸筋を伸ばすストレッチで肩甲骨周りの筋肉を鍛えることで、正しい姿勢を保つことも勧める。
「上背部の脊柱が前方に丸まる後弯症(こうわんしょう/猫背)は、加齢によって避けられません。体が前かがみになると、大胸筋(だいきょうきん)や肩甲骨の周辺を安定させる筋肉がさらに悪化し、弱まります」
胸を張って肩を後ろに引くことで姿勢はすぐに改善し、手が頭上に届きやすくなったり、呼吸がラクになるなどの付随する利点も得られるという。
この姿勢改善は、大胸筋のストレッチと肩甲骨周りの筋肉強化によって可能だ。具体的には、肩を回す「ショルダーサークル」や、肩甲骨を寄せて肘を腰に近づける「ショルダースクイーズ」が効果的だという。
■【動画】「ショルダーサークル」と「ショルダースクイーズ」 を見る
そして立った状態か座った状態で、手のひらを前に向け、腕を横に広げて後ろへ引く、胸のストレッチも推奨される。
さらに、腹筋の強化やハムストリングスの柔軟性向上は、股関節だけでなく腰の関節痛予防にも役立つ。片足立ち、かかとからつま先へ重心移動での歩行、バランスボールなどを使った安定性の強化トレーニングも効果的だという。
加齢は避けられないが、健康を保つ選択は自分次第。そうした習慣の積み重ねが、将来的な関節の健康につながっていく。
ショルダーサークル
Shoulder Circles - Ask Doctor Joショルダースクイーズ
Shoulder Squeezes - Ask Doctor Jo鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。