長らくイスラム教徒とキリスト教徒の紛争が続いたフィリピン南部のミンダナオ島。
この地域にサッカーを普及させようと、かつて青年海外協力隊員として活動した兵庫県西宮市の高校教員が、クラウドファンディング(CF)による支援を呼びかけている。
きっかけは「サッカーで地域を平和にしたい」という現地の友人の言葉だった。

この教員は、西宮市立西宮東高校で非常勤講師をしている北村也寸志さん(68)。県内の高校で理科教諭として約40年にわたって勤務し、サッカー部で指導をしてきた。
県立尼崎稲園高校に勤めていた1989年、青年海外協力隊員としてミンダナオ島南西部のサンボアンガ市にある大学に海洋生物学を教えるため派遣された。
放課後、北村さんは学生からメンバーを募って、サッカーチームをつくった。当時の練習道具と言えばボロボロのボールが一つ二つと、大学近くに所々に牧草が生えた砂利のグラウンドがあるだけだった。
市内の大会に出ると、参加チームは四つほど。そこで審判員のウィリアム・フィロテオさんと、地元のサッカー協会のテン・トーレスさんと出会った。同世代ということもあり打ち解けた。
北村さんは2年後に帰国。2人とは長年連絡を取らず、音信不通になっていた。
フィリピンではキリスト教徒が多数を占めるが、ミンダナオ島や周辺の離島を中心に少数派のイスラム教徒が暮らす。
60年代後半から40年以上にわたり、独立や自治を求める武装組織と政府の衝突が続き、十数万人が死亡したとされる。
2014年に政府と最大の武装組織モロ・イスラム解放戦線(MILF)の間で和平合意が締結され、自治政府発足に向けた和平プロセスが進められている。
だが、今も対立の火種は残り、サンボアンガ市を含む一帯には日本の外務省から渡航中止勧告が出されている。

それでも北村さんは昨年3月、2人の友人に会いたいと約30年ぶりに現地に向かった。この日は週末で、空港近くの競技場でサッカーの大会が開かれていた。思い切って大会本部をたずねた。
「ウィリアムという審判を知らないか」
「ああ知ってるよ。こいつがその息子だ」
ほどなくして北村さんは友人2人と再会した。夕食を食べながら、こうたずねた。
「この30年どうしてた?」
2人は口をそろえた。「サッカーで地域を平和にしたかった。だから、子どもたちにサッカーを教えて回っていたんだ」

市内に数えるほどしかなかったサッカーチームは、大人、19歳以下、15歳以下、12歳以下の各世代で10チームずつまで増えていた。さらに2人は特に紛争の激しかった南西部の離島にも渡り、小学生らにサッカーを教えていた。2人の息子や教え子たちも一緒に活動を続けていたという。
ただ相変わらず練習道具は足りず、練習場所も十分ではなかった。そこで北村さんはCFで、ボールの購入費や指導者派遣の渡航費、現地での講習会開催費などを募ることにした。
北村さんは最初につくったチームのことが忘れられない。イスラム教徒とキリスト教徒の両方の学生が楽しそうにボールを蹴っていた。
「サッカーは生身の人間のぶつかり合いで、相手のことがわかるようになるし、たたえ合うようになる。サッカーを通じてきっと自然に平和な社会になる」と支援を呼びかけている。
目標金額は300万円で、支援金は3千円から。締め切りは11月3日。CFサイト「キャンプファイヤー」の「西ミンダナオ平和プロジェクト」=QRコード=から申し込める。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。