第66回東日本実業団駅伝が11月3日、埼玉県の熊谷スポーツ文化公園陸上競技場及び公園内特設周回コース7区間74.6kmで行われた。初出場のM&Aベストパートナーズが3時間33分38秒で6位に入り、元旦のニューイヤー駅伝出場を決めた。23年12月に、神野大地がプレイングマネジャーに就任して創部。「プロの実業団チームとして競技で結果を追求するだけでなく、プロ野球やJリーグのようにファンに支えられ、応援される、これまでにない陸上チームの形を創り上げ、陸上界の常識を変えていくことに挑戦し続けます。」(同社ホームページから抜粋)という理念を掲げ、ファンの獲得を積極的に行い、その応援とともに成長してきた。
M&Aベストパートナーズは初陣で以下のような区間成績(チーム順位)を残した。
1区 13.1km 山平怜生 区間4位
2区 8.2km C.F.キプロノ 区間12位(7位)
3区 16.4km 堀尾謙介 区間4位(5位)
4区 8.2km 木付琳 区間10位(8位)
5区 8.2km 栗原直央 区間8位(7位)
6区 8.2km 鬼塚翔太 区間8位(6位)
7区 12.3km 中川雄太 区間9位(6位)
チームが本格的に活動し始めて7か月での成績は快挙と言っていいだろう。ここまでのプロセスを、レース後に神野監督が語った。
「最後まで悩んだ区間配置」で選手が好走
Q.6位という結果の率直な感想は?
神野監督:本当にボーダー(13位)争いかな、と思っていました。みんなが100%を出したら8位はあるかもしれない、と思っていましたが、ここまで上の順位を取ることは想像していませんでしたね。みんなが想像を超える走りをしてくれたと思います。
Q.1区の山平怜生(23)選手が好スタートを切りました。
神野監督:今回、区間配置は最後まで悩みました。元々の配置から最後、1週間ちょっと前に変えています。山平も当初は4区の予定でしたが、調子が良かったので1区を任せようと。期待に応えて区間4位で来てくれて、完全に流れを作ってくれました。
Q.最長区間の堀尾謙介(29)選手も区間4位と良い走りでした。
神野監督:10月頭の世田谷記録会10000mでは29分14秒17で、チーム内でも全然良くなかったんですが、10月中旬から一気に調子が上がってきました。最後は堀尾の力を信じてエース区間を任せました。4区の木付琳(26)は10月の記録会で5年ぶりに10000mの自己記録を更新して(28分21秒06)、3区を走ってもらうつもりでした。記録会後に少しケガもあって、まだ回復段階ということで3区は堀尾にお願いして、木付には4つある8.2km区間の中で一番重要な4区を任せました。状態は良くなかったと思いますが、あきらめない走りをしてくれました(区間10位)。5区の栗原直央(23)は学生時代まで1500mが専門で、駅伝とは無縁の世界にいた選手です。MABPマーヴェリック(M&Aベストパートナーズのチーム名)に入って夏合宿では距離走も頑張りましたし、苦手なクロスカントリーも必死な顔をして走って、夏が明けたら体つきが変わっていましたね。今日が初めての駅伝でしたが、役割を全うしてくれました。
Q.当初の目標は2年目でのニューイヤー駅伝出場でした。前倒ししての出場も監督として考えていた?
神野監督:創部したときの目標は2年目の出場でしたが、1年目からメンバーが揃ったので、その頃から狙っていけるな、という思いはありました。2年目に行くのなら、1年目から本気で目指す経験をしておかないといけない。2年目のための1年目ではなく、1年目からこのメンバーで東日本を通過しよう、と4月から言い続けてきました。熱意や大会への思いで結果も変わる、ということを今日の走りで証明してくれたと思います。
100人くらいの応援に感動
Q.ここまでの過程で一番手応えを感じたところは?
神野監督:夏合宿です。(6~7月の)ホクレンDistance Challengeは惨敗とも言える結果で、周りからも「M&A全然だね」という評価を受けました。そこで選手たちも夏で変わらなければ、という気持ちでやってくれましたね。1個1個の練習で力を付けてくれました。10月頭の世田谷記録会で日本人6選手中4選手が自己新を出して、チームもこれは行けるぞ、という雰囲気になってきました。
Q.ファンに愛されるチームを目指し、情報発信を積極的に行ってきた成果は?
神野監督:そこも想像以上でした。選手や指導者も応援されることを待つだけでなく、応援してもらえる努力を自分たちですべきだと、実業団の世界に入ってからずっと感じていました。SNSなどを利用して7か月ちょっと、情報発信をしてきましたが、今日もファンの方たちがいっぱい来てくれました。他の上位チームは何万人も社員がいる会社です。M&Aベストパートナーズは120人しかいませんが、社員の方たちもたくさん来てくれました。今朝、応援に何人くらいの方が来るかな、15~20人くらいかな、と思っていましたが、200人くらいの方たちが来てくださいました。しかも(スタート30分前の)7時半の時点で来ていただいて。もうその段階で感動しました。本当に陸上界を変えられるかもしれない、と感じられた日になりました。そこは本当に良かったと思いますが、発信を頑張って応援されても、この世界は結果を出さなければ意味がありません。昨日のミーティングでは、まだ何も成し遂げていないチームだと選手に話しましたが、今日でニューイヤー駅伝出場を達成できて、MABPマーヴェリックの第一章を刻むことができたと思います。しかしこれから、まだまだ高い山に登っていきたいと思っているので、大変なのはこれからです。チーム一丸となって、本当にこの業界を変えるために頑張っていきます。
ニューイヤー駅伝をもっと人気のある大会に
Q.ニューイヤー駅伝の目標は?
神野監督:そうですね。1年目はこの東日本に全てをかけようということで、最大の目標としてきました。ニューイヤー駅伝に関してはまだちょっと考えられない部分もあるのですが、来年の東日本地区の出場枠というところを考えると、30番以内というところが1つ目標になるので、そこは目指したいと思います。選手たちもここまで、すごく頑張ってきたので一度リラックスさせて、トラックで記録を狙うこともしますけど、ニューイヤー駅伝に向けてもう一度再スタートします。日本選手が今7人しかいませんが、そのうち6人走らないといけないので、ケガ人は本当に出せません。最終的な目標をどう設定するかまだわかりませんが、チームで話し合って決めた目標を目指していきます。
Q.実業団駅伝の可能性をどう感じている?
神野監督:まだまだ可能性はあると思っています。ただ、このニューイヤー駅伝、実業団の駅伝は、箱根駅伝があれだけ盛り上がって、選手が実業団に行ってからも応援したいとファンの方たちが思っても、どう応援していいのかわからないような気がしています。情報が不足していていることもあるのかな、と思って自分たちで情報発信をしています。少しでも興味を持ってもらったり、MABPマーヴェリックが強くなっていく過程を共有したりしながら進んで行く。そういうストーリーを作れたら、という思いがありました。思った以上の成果というか、チームの輪を作れてきた手応えも感じ始めています。もっと上を目指してさらに結果を出して、ニューイヤー駅伝がもっと人が集まったり、世間から注目されたり、子どもたちから憧れられたりする大会にしていきたいですね。その可能性は全然あると思うので、あとはもう、やるかやらないかです。いつか大きな花が咲くように今は小さな種を蒔き、地道にやっていきたいと思っています。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)
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