(第107回全国高校野球選手権大会決勝 沖縄尚学3―1日大三)
判断を託された場面で、仲間を信じた。1―1の六回2死一塁。塁上にいた沖縄尚学の宮城泰成に比嘉公也監督からサインが出た。「いけたら、いっていい」
マウンドには日大三のエース近藤優樹。4番宜野座恵夢(えいむ)に初球を投じる前に、一塁に牽制(けんせい)球が来た。ここで宮城は意を決した。
「2回目の牽制はない」
直後、相手右腕の左足が上がる直前にスタートを切った。「ちょっとギャンブル。でも思い切った」。投球モーションを完全に盗んだ。捕手は二塁に投げることすらできなかった。
2死二塁。続く2球目、宜野座の左前安打で快足を飛ばし、一気に生還した。勝ち越し。ぎっしりと埋まった三塁側アルプス席から、大音量の歓声と指笛が届いた。
宮城には盗塁に踏み切る根拠があった。決勝前日、宿舎の一室に部員だけで集まった。1年生も含め約30人がグループに分かれ、日大三の投手陣を分析した。近藤が2球連続で牽制をしないことも「みんなで出したデータ」(宮城)だった。
普段から、練習後に必ず部員のみでミーティングを行う。「大人が入るんじゃなくて、選手間で話す方が化学反応が起きる」と比嘉監督。主体性を重んじ、一歩引いた立場で成長の種をまいた。
この日、相手の先発投手は甲子園で初登板だった。阿波根裕は「予想していなかった」。
それでも、一回に凡退した比嘉大登(たいと)から「スライダーもあるけど、タイミングは直球に合わせていい」と助言をもらい、二回の初打席でその直球を左越えの同点二塁打にした。「比嘉の言う通りにして正解でした」
沖縄で育んだ結束力、思考力、分析力――。すべてを詰め込んだ攻撃が、遠く離れた甲子園で花開いた。
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