声に想いを乗せ、夢を託した。沖縄の高校野球史が動いた8月23日。初の決勝に進んだ沖縄尚学を後押しする甲子園のアルプススタンドは沸きに沸いた。緑色のチアスティックが揺れ、指笛があちらこちらで鳴り響く。そこに、敵はいない。全員が沖縄尚学の「味方」だった。

 アルプススタンドにはライバルの姿があった。今春のセンバツで俊足巧打のリードオフマンとして大活躍したエナジックスポーツ(沖縄)のイーマン琉海選手(3年)。沖縄尚学を応援するため、沖縄から甲子園に駆け付けた。それも、関西行きの航空券に空席がなかったため、手を尽くして広島経由でなんとか辿り着いた。

 1年間、沖縄尚学のことだけを考えてきた。倒すために。「めっちゃ強いっす。沖尚は1番のライバルだったので」。

 エナジックスポーツはこの1年、何度も沖縄尚学の壁に跳ね返されてきた。昨秋の県大会決勝、九州大会決勝、そして今夏の沖縄大会決勝。一度も沖縄尚学を倒すことができず、最後の夏も終わった。試合後、イーマン選手は悔し涙を流しながら語った。

 「沖縄尚学は全国制覇できるチームだと思うので、沖縄県民の代表として頑張ってほしい」

 沖縄尚学の眞喜志拓斗主将(3年)はその想いを受け取った。

 「甲子園ではエナジックの分も。沖縄県代表として、誇りを持ってプレーしたい」

 エナジックスポーツのイーマン選手と沖縄尚学の眞喜志主将は中学時代、二遊間を組んでともにプレーした仲。高校はそれぞれ別の道へ進んだが、互いに下級生からチームの中心メンバーとして活躍し、切磋琢磨した存在だった。イーマン選手は甲子園決勝前日、眞喜志主将に電話でエールを送った。「頑張れよ!」。眞喜志主将は「優勝するわ」と応えた。

 迎えた日大三(西東京)との決勝戦。「沖尚は全国制覇できるチーム」と語っていたイーマン選手の予言は的中。一進一退の攻防に声を枯らし、一球一打に目を凝らした。そして、歓喜の瞬間、イーマン選手も興奮が収まらなかった。「やばい。すごいです。日本一強いチームとあれだけ勝負できたのは誇り。(自分たちは)沖尚に負けて、最後、終われて良かった。おめでとう!」

 視線の先に歓喜の沖縄尚学がいる。ライバルが見せてくれた「全国の頂点」。いや、仲間が見せてくれた「全国制覇の景色」は想像以上に美しかった。それを目に焼き付け、胸に刻み込み、イーマン選手も、また次の夢に向かって歩んでいく。


 (毎日放送スポーツ局 上原桐子)

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