「ケツバット、って皆さんわかりますか。選手のお尻をバットで殴る。そういったことを繰り返していたために、それが報道されることになったんです。腹を立てた顧問は陵平に、誰がメディアにチクったのか聞いて回れ、と指示をしました」「陵平は大粒の涙を流しながら母親に言いました。そんなことはしたくないと」
「指導死」の名付け親 大貫隆志さん
生徒指導により追い込まれた子どもの自殺は「指導死」と呼ばれるが、その名付け親がいる。
大貫隆志さんだ。
自身も、二男を指導死で亡くした自死遺族。
その経験から、学校での指導死やいじめ、体罰などをなくすための調査研究を行う一般社団法人の代表理事を務めている。
大貫さんは2025年11月、沖縄で行われた講演会で、スポハラの根絶を訴えた。
※読者の方へ 読んでつらい気持ちになったら、この記事から離れてください。
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大貫隆志さん(一般社団法人ここから未来 代表理事):
「子どもたちはとても簡単な理由で命を絶ってしまいます。まさかこんなことで、というレベルです。ちょっとした暴言くらいいいんじゃない? という思いが、どれくらい危険な思いなのかということをぜひ知ってほしいと思います」
穏やかな語り口の大貫さんだが、筆舌に尽くしがたい深い悲しみを今も抱えている。
中学2年生だった二男、陵平さんが自殺したのは2000年のこと。
陵平さんは、学校で友人たちとお菓子を食べていたことを教員に咎められた。
会議室に集められた生徒9人が、教員12人から約1時間半の指導を受け、他にも食べた生徒がいないか、密告を強制された。
その件を報告する担任からの電話を母親が受け、「臨時の学年集会を開く。生徒全員の前で決意表明するように」という伝言が陵平さんに伝わった。
陵平さんは、その40分後に自殺した。
自死の10か月前 部活指導で折られた心
実はこの指導の前に、もう一つ大きな出来事が起きていた。記事冒頭の「ケツバット問題」だ。
亡くなる約10か月前、陵平さんは野球部を退部していた。
「野球部の顧問が日常的に生徒に暴力を振るうタイプの顧問でした。ケツバットって皆さんわかりますか。選手のお尻をバットで殴る。そういったことを繰り返していたために、それが報道されることになったんです」
「腹を立てた顧問は陵平に、誰がメディアにチクったのかを聞いて回れ、と指示をしました。陵平は1年生の連絡係みたいな、代表のようなことをしていましたので、そういう命令が下されました」
「結果として陵平は顧問の指示を拒否すること、そしてそれ以上被害が大きくならないために野球部を辞める選択をしました。大好きだったんです、野球が」
「みんなと一緒にやるスポーツって本当に楽しい、そんなことを言いながら夢中になっていました。でもそれを奪われました」
「同級生が『俺も野球部辞めようかな』と陵平に相談した時に、陵平はこんなふうに答えています。『俺みたいになるなよ』。そんな思いを抱えながら、陵平はかろうじて生きていたんです。でも、結果から見れば、命の半分くらい、その時に奪われていたのではないかなと思います」
陵平さんは遺書にこう記していた。
「たくさんのバカなことをして もうたえきれません バカなやつだよ 自爆だよ じゃあね ごめんなさい
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