若手育成で常勝軍団へ

前身の西鉄時代を含めて、これまでリーグ優勝23回、日本一13回。

プロ野球・西武は、輝かしい歴史の中で「常勝軍団」と呼ばれた。

1991年 日本シリーズで優勝

清原和博、秋山幸二、伊東勤、渡辺久信、工藤公康、松井稼頭央…

「常勝軍団」を作り上げてきた記憶に残るレジェンドたちも若いうちから球団で鍛えられてきた。

「地道に若手を育成していくのが常勝軍団を作る近道」。

球団の潮崎哲也シニアアドバイザーのことばだ。

優勝投手の潮崎哲也氏(1992年 リーグ優勝)

その潮崎氏も高校から社会人を経て西武で活躍した。

FAで主力選手が他球団に移籍していく中でも、次々と若手の有望株が出てくるのが西武だ。

そんな球団がことしから新しい育成プログラムを始めた。

8月上旬。

北海道美唄市での「3軍夏季キャンプ」。

2軍の試合で出場機会の少ない選手などおよそ20人が、12日間、北の大地で野球漬けの日々を送った。

プロ野球のキャンプというとシーズン前の2月。シーズン終了後の秋に行うのが一般的だが、シーズンまっただ中の8月、しかも真夏の暑い時期に本拠地を離れて行うのは異例と言える。

それでも、開催に踏み切った最大の理由は北海道の“涼しさ”だ。

本拠地の埼玉県所沢市では夏に猛暑日が続き、熱中症対策のため練習を取りやめることもあった。

気象庁によると、美唄は8月の最高気温の平均が所沢に比べて5度低く、比較的涼しい環境で、練習の時間を十分に取ることができるのだ。

技術も体も鍛えないといけない若手にとって継続して野球の練習ができるうってつけの場所だ。

齋藤大翔選手。

参加した1人で石川県の金沢高校からドラフト1位で入団したルーキーだ。

「スピードは1軍を入れてもチームトップ3」と評価されている。

キャンプでは連日、朝8時の早出練習から夕方まで、大きな声を出しながら、持ち味の俊敏な動きでグラウンドを駆け回った。

齋藤大翔選手
「アップをしていても、所沢だったらすぐばてますが、そういうのがない。練習に専念できる環境が整っているし、指導者の方もすごく熱く指導してくれる。成長につながっていると思う」

課題にしている守備でも、所沢の2倍ほどの量のノックを受けていた。

キャンプに参加せず2軍のリーグ戦に帯同するのも当然成長につながるが、練習量を確保しなければいけない若手にとって必要な環境が整っている。

「この期間にこれだけ練習できるのはすごくいいことだと思う。2週間という期間だが、この期間でもっと成長したい」

シーズン中ならではの面談

キャンプでは夕方、食事を終えた選手たちが行うのがコーチ陣などとの面談だ。

選手が事前に提出したレポートをもとに、球団の育成担当者やコーチと課題を共有して成長へのヒントを探るのが目的だ。

シーズン前、齋藤選手は「1軍の試合に出場、2軍でも70試合場出場」を目標にしていた。

しかし、けがもあって2軍での出場は7試合にとどまっていた。
もちろん1軍の出場はまだない。
(取材日は8月5日)

岡田雅利 育成担当兼人財開発担当
「今後、どのように戦っていくかっていうのがすごく大事になってくるんだけど。どういうところを、重点的にやっていきたい?」

齋藤大翔選手
「2軍で7試合。連続して出られていないっていうのは、出続ける力がなかったと思っている。課題としては守備かなって思っている。出場するチャンスがもらえた時には、少しでも成長した姿を指導者の方に見せて、アピールしたい。1軍で出る目標も達成できると思う。それに向けて課題と向き合っていく時間にしていきたい」

高校を卒業したばかりのプロ1年目。

まだまだ体作りが必要な18歳。

鍛えて、食べて、考えて。

成長に向けて、充実したキャンプを過ごしていた。

さまざまな思いでキャンプに

プロ野球は、きのうプレーしていた選手が、きょう戦力外通告される。

そんな世界だ。

参加しているのは齊藤選手のように、将来、希望にあふれる選手だけではない。

プロの世界で必死に生き残ろうと、キャンプに臨んだ選手もいた。

それが、私(記者)が球場に着いたとき、最初にあいさつしてくれた選手。

3年目の育成キャッチャー、野田海人選手だ。

私が初めて会ったのは、前任の北九州放送局時代。

九州国際大付属高校時代の野田選手を取材した。

キャプテンとして、春・夏連続で甲子園出場し、18歳以下の日本代表にも選ばれた。

地元のスター選手だった。

高校時代の野田選手(2021年10月)

野田選手は2022年のドラフト会議で3巡目で指名を受け、大きな期待を受けて入団した。

1年目は2軍で15試合、2年目は8試合の出場にとどまった。

なかなか期待に応えられない中、昨シーズン終了後に古傷の両ひざの手術を行い、ことしから育成選手としての契約になった。

いつまで続けられるか分からないプロ野球生活。野田選手は、キャンプで守備力強化に向けて、ショートバウンドの投球を体で止める基礎的な練習を繰り返した。

防具を着けて泥だらけになるその姿に、チャンスをつかむ決意がにじんでいた。

野田海人選手
「練習量は所沢にいた時の倍の倍くらいだと思う。手術で今シーズン出遅れたので、このキャンプで練習量を取り返さないといけない。今のところいいキャンプになっている」

練習後、野田選手は、そう言い残して帰りのバスに乗り込んだ。

大学でいえば、3年生。
まだまだ1軍での活躍を目指して頑張ってほしい。

“解説は選手” 言語化能力を鍛える

球団は、本拠地所沢で、若手選手に対し、ボールを使わない新たなトレーニングも始めた。

それが「試合中継の解説」だ。

2軍の試合で、実況アナウンサーとともに放送席に入り、解説を行う。

プロ野球で現役選手が解説を行うのは異例だ。

その背景は、野球理論の変化がある。

「感覚でやってきた主観重視の指導者と、データを活用してきた客観重視の指導者が交わる世代になっている」(球団の育成担当者)

球団は、選手がコーチから指導を受けるにあたり、自分の意思や考え方を客観的により分かりやすく伝える「言語化能力」を磨くことが成長に欠かせないと考えている。

7月、ドラフト1位ルーキーの齊藤選手は2軍の試合の解説に挑戦した。

ふだんは入ることのない放送席に入った齋藤選手は、人生で初めてする野球の解説に、なかなか考えていることをことばにすることができなかった。

実況アナウンサー
「バッティングだと現時点だと目標にしている選手はいるんですか?」

齋藤大翔選手
「オリックスの太田椋選手。すごいなって思います」

実況アナウンサー
「どういう部分が?」

齊藤選手
「高校の時の映像から太田選手はすごいなって思っていたので」

解説を終えるとすぐに球団の担当者からのフィードバックを受けた。

伊藤悠一ファーム監督補佐 兼 人財開発担当チーフ
「太田椋選手のどこがすごいのか、聞いているだけだと分からなかった。練習の現場でコーチと話した時に、太田椋選手目指しているんですって言っても、“(齊藤)大翔の考えてる太田椋選手”と“コーチが考えてる太田椋選手”って違う可能性があるでしょ。適切なアドバイスとかもらえないということにつながってしまう。もっと具体的に何がすごいのかを言わないといけないね」

半年前までは高校生、それでも今は1人の社会人として野球の技術にとどまらないさまざまな力を磨いていかなくてはいけない。

齋藤選手
「喋れる力をもっとつけていかないといけない。パフォーマンスにも絶対つながるんじゃないかなって思っている。プロに入って改めて思った。自分の意見をすぱっと言えるようになりたい」

夏から秋になりプロ野球のシーズンが佳境を迎える中、12球団の若手たちは1日でも早く活躍できる選手になろうと、日々地道な努力を続けている。

ただ、やみくもに体を使って練習をするのではない。

毎年のように厳しさが増す気象状況や変わりゆく野球理論の中、新たな選手育成の形がプロ野球の世界でも生まれてきている。

(2025年8月21日「ニュースウオッチ9」で放送)

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