今大会も、男子100メートルは伝説と化すかもしれない。

 1991年の東京大会第2日に行われた決勝では、カール・ルイス(米国)が9秒86の世界新を出して優勝した。当時の国立競技場で響いた大歓声は地鳴りのようだったと言われている。

 34年ぶりの東京大会では、さらなるハイレベルな争いが期待される。24年パリオリンピック(五輪)では決勝進出ラインが9秒93。準決勝を9秒台で走っても敗退した選手が4人もいた。9秒9台前半を出さねば決勝に残れないかもしれない。

  • 【スロー映像で解説】競歩選手はなぜ速く歩けるのか 藤沢勇×山西利和

 鍵を握るのがノア・ライルズ(米国)。23年世界選手権ブダペスト大会、24年パリ五輪で優勝した。大観衆になるほど燃えるタイプで、勝負強さを備える。

 目指すのは速く走ることだけではない。自らを演出が巧みな「Showman(ショーマン)」と形容し、人々を魅了する展開を追い求めている。

 「大観衆が望んだ分だけのとびっきりのショーを見せたい。テレビで見ているだけでは分からないエンターテインメントを提供したい」

 対抗するのが、キシェーン・トンプソン(ジャマイカ)だ。24年パリ五輪決勝はライルズに1000分の5秒差で敗れ、銀メダル。しかし、今年8月に、ポーランドで行われたダイヤモンドリーグの100メートルを9秒87で制し、ライルズに雪辱を果たしている。

 ケネス・ベドナレク(米国)の存在も見逃せない。8月には自己新9秒79をマークした。

 ライルズとの関係性にも注目だ。2人は8月の米国代表選考の200メートル以降、互いを挑発するような発言が目立つ。

 ウサイン・ボルト(ジャマイカ)が持つ世界記録9秒58の更新は3人をもってしても厳しいと言わざるをえない。それでも熾烈(しれつ)なレースになるのは間違いないだろう。

 日本からは桐生祥秀(日本生命)、サニブラウン・ハキーム(東レ)と初選出となった守祐陽(ゆうひ)(大東大)の3人が出場する。

 桐生は19年ドーハ大会以来の個人種目出場。今季は8シーズンぶりに9秒台(9秒99)をマークするなど好調を維持しており、自身初の決勝進出を目指す。

 サニブラウンは22年オレゴン大会、23年ブダペスト大会と2大会連続で決勝に進出。故障での調整遅れが気がかりだが、3大会連続ファイナリスト、自身初のメダル獲得にも期待がかかる。

 勝負は10秒足らずで決まる。世界屈指のスピードと迫力によって、国立競技場はどんな反応を見せるのか。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。