大塚ローテックの腕時計「9号」

ミネベアミツミは22日、同社製の極小ベアリングを搭載する腕時計が完成したと発表した。技巧を凝らした時間表示のデザインが特徴の国産ブランド「大塚ローテック」で、「現代の名工」に選ばれた職人がつくり上げた。芝浦電子の買収が失敗に終わった直後だが、難易度の高い技術に挑戦し続ける姿勢を示した。

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国立科学博物館を舞台に発表したのは腕時計「9号」だ。大塚ローテック創業者の時計師、片山次朗氏による作品だ。ミネベアミツミのベアリングの採用は1月に発表した「5号改」に続く。

片山氏は2024年、スイス・ジュネーブで開かれる時計の祭典「ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ(GPHG)」で3000スイスフラン(約56万円)以下の時計部門でグランプリを受賞した。厚生労働省が定める、現代の名工にも選出されている。

新製品は片山氏が駆動部分を一から設計し、9年間かけて完成につなげた。価格は1760万円だ。1時間ごとに文字盤左の内壁沿いに設けたゴングをハンマーがたたいて音が鳴るなど、幅30ミリメートルのケースのなかに複雑な機構を凝縮させた。

ミネベアミツミが開発したルビー搭載のベアリングは外径2.5ミリと小さい

ハンマーの可動軸にはミネベアミツミが新たに開発したベアリングを採用した。ベアリングのボール部分にルビーを使い意匠性を高めた。外径2.5ミリ、内径1ミリの中に8つのルビーボールが入る。片山氏は「機能的な美しさ、格好良さを9号のデザインに生かした」と語る。

ミネベアミツミ機械加工部品統括ベアリング統括部の勝田久美子氏は「ミネベアミツミならではの技術で、ルビーを小さいベアリングの構成部品として採用できた」と強調した。このほか外径1.5ミリの世界最小ベアリングも採用された。

ミネベアミツミは1951年に創業した日本初のミニチュアベアリング専業メーカー「日本ミネチュアベアリング」を源流に持つ。17年に電子部品のミツミ電機と経営統合するなど、事業を多角化してきた。

近年は「8本槍(やり)」としてアナログ半導体やセンサーなどを強化している。台湾の電子部品大手、国巨(ヤゲオ)に対抗して、センサーで独自技術を持つ芝浦電子の「ホワイトナイト(友好的な買収者)」に名乗りをあげたのもこの文脈だ。

多角化の中でもベアリング事業の役割は色あせていない。25年3月期の連結売上高1兆5227億円のうちベアリングを含む「プレシジョンテクノロジーズ」部門は2557億円と約17%だったが、売上高営業利益率は22%と高く、連結営業利益(全社費用など調整額含む)の6割弱を稼ぎ出した。

芝浦電子買収では敗北したものの、ミネベアミツミの貝沼由久会長最高経営責任者(CEO)は、成長に向け次のM&A(合併・買収)の好機をうかがう。小粒でも光る存在感を発揮するベアリングは、M&Aの原資となるキャッシュを創出し、複雑になった事業をつなぎ支える要となる。

(山田航平)

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