
大阪・関西万博で華を競う海外パビリオン。しかし、開幕前に行われた建設工事を巡り、工事を担った業者が元請け業者らに工事費の未払い分を求めて訴訟沙汰に発展するケースが相次いでいる。なぜ同様のトラブルが続くのか。
「正直、事務所の家賃も払えていない。いつ(事業の)息が止まってしまうのかわからない……」
セルビアとドイツのパビリオン工事を担った大阪市の建設会社は8月、元請けとなる海外企業の日本法人に対し、未払い工事費約3億2800万円の支払いを求めて東京地裁に提訴した。原告の男性社長(54)は提訴後、大阪市内で開いた記者会見で怒りをにじませた。
訴状によると、原告の建設会社はセルビア、ドイツのパビリオン工事を被告の会社から計約6億2600万円で受注。だが工事着工後、図面の変更などで契約当初に想定していなかった作業が頻発したという。
原告は納期に間に合わせ、被告の会社に対し想定外の工事費用の支払いを求めたが、3億円超が未払いの状態という。男性社長は「協力業者から毎日のように支払いの催促がある」と窮状を訴える。
日本国際博覧会協会(万博協会)によると、ドイツやセルビアのほか、アンゴラやマルタなど計11カ国の海外パビリオンの建設工事に携わった業者から工事費の未払いに関する相談が寄せられたという(9月17日時点)。アンゴラ館など他のパビリオン工事でも、未払いの工事費を求める訴訟が起きている。

なぜトラブルが相次ぐのか。パビリオンの未払い問題に詳しい藤原航弁護士(大阪弁護士会)は、「海外パビリオンはもともと工期が短く、国内の大手ゼネコンが参入に後ろ向きだったため、海外企業が工事を受注した」と指摘する。
海外企業は商慣習も国内と大きく異なり、下請け業者も海外企業とやりとりするノウハウがない。「(海外企業から)無理な計画変更を余儀なくされ、トラブルに発展するケースが多い。構造的な問題だ」と話す。実際、男性社長によると、追加工事分の支払いについて被告側の現場担当者が支払うと述べ、後日催促したが「追加工事が発生した認識はない」と言われたという。
被告会社は毎日新聞の取材に対し「事実に反し、誤解を与える発言が相手当事者からあったことは容認できない。契約上の義務および日本の法令を順守している」とコメントし、訴訟については「係争中のため差し控える」とした。
未払いを訴える別の下請け業者らは5月、「被害者の会」を結成。府や万博協会に対し、未払い金の立て替えなどの救済措置を求めている。
ただ、府は「業者間の未払い問題は、当事者同士で解決することが基本」とし、救済措置を実施しない方針を示している。万博協会も取材に対し、「関係者に事情を聞くほか、行政機関に情報提供を行うなど、できる限りの対応をしている」と述べるにとどめた。
大阪・関西万博の閉幕(10月13日)まで残り2週間。パビリオンが閉幕後も華として語り継がれるためには、一連の未払いトラブルの解決が欠かせない。【国本ようこ】
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