三洋化成工業と広島大は人工たんぱく質を使った半月板の再生療法を開発している(31日、京都市)

三洋化成工業は31日、独自開発の人工たんぱく質「シルクエラスチン」を使った半月板の再生治療で11月に臨床試験(治験)の最終段階に入ると発表した。2028年度の実用化を目指す。歩行時に膝関節のクッションになる半月板は損傷すると根治が難しかった。高齢者やスポーツ選手に多い半月板のけがの画期的な治療法となる可能性がある。

31日に京都市内で開いた記者会見で三洋化成の樋口章憲社長はシルクエラスチンについて「将来の事業の中核に育つ製品として最も期待している」と述べた。治験を実施する広島大の安達伸生教授も「人工たんぱく質を使った整形外科治療は世界初の試みとなる」とその新規性に注目する。

広島大学病院(広島市)など全国8病院で40人の患者を対象に治験を実施する。期間は27年6月まで。半月板は大腿骨と脛(けい)骨の間にあるC字型の軟骨組織で、スポーツ時にかかる圧力や老化で割れることがある。今回の治験では半月板の損傷部を縫合した部分にシルクエラスチンの水溶液を注入して再生を促す。

最終治験について説明する三洋化成の樋口社長(中)と広島大の安達教授(左)(31日、京都市)

シルクエラスチンは遺伝子組み換え技術によって作製し、シルクを構成するたんぱく質「シルクフィブロイン」と皮膚に含まれるたんぱく質「エラスチン」を組み合わせた構造になっている。この水溶液は体温によって数時間ほどでゲル状に固まり、損傷部の自己治癒につながる細胞増殖を促す「足場」となる。

三洋化成は創傷治療向けにシルクエラスチンの開発を進めてきたが、半月板の損傷にも効果があるとみる。医師主導によるこれまでの治験では、半月板を損傷した10〜50代の8人の患者のうち、6人が完治したという。残る2人も一定程度の効果を確認できた。

半月板の中心部は広範囲で血流がないため、いったん損傷すると自己修復は困難になるという。縫合や切除などの外科手術が年間4万8000〜4万9000件ほど行われているが、完治できずに強い痛みや歩行障害が残るケースが多い。

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