
【ニューヨーク=西邨紘子】米日用品大手のキンバリー・クラークは3日、同業の米ケンビューを買収すると発表した。負債を含め、総額487億ドル(約7兆5000億円)を投じる。2026年後半の手続き完了を目指す。ケンビューは主力鎮痛剤「タイレノール(アセトアミノフェンの製品名)」を巡って、トランプ米政権から健康被害のリスクがあるとの批判を受けていた。
総額875億ドルにおよぶ米鉄道大手ユニオン・パシフィックによる同業ノーフォーク・サザンの買収や、490億円を投じる米ゲーム大手エレクトロニック・アーツの株式非公開化に次ぐ大型案件となる。
トランプ政権「自閉症リスク高める」
ケンビューは米国で解熱剤として広く普及するタイレノールを生産・販売する。トランプ政権が9月、妊娠中に服用すると子供の自閉症リスクを「大きく高める」と主張し、株価が大きく下落していた。
米国では、同成分と自閉症の関連性を主張する訴訟がこれまでに多数起こされている。ただ専門家には懐疑的な見方も多く、ケンビューは関連性を否定している。
世界保健機関(WHO)もトランプ政権の警告後に声明を出し、妊娠中の使用と自閉症との関連性を裏付ける科学的証拠は「現在のところない」と指摘した。アセトアミノフェンは日本でも鎮痛剤として一般に利用されている。
ケンビューと米政権の溝は埋まっていない。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによると、カーク・ペリー最高経営責任者(CEO)が9月上旬にロバート・ケネディ米厚生長官へ説明を試みたが「成功しなかったようだ」と報じた。
物言う株主から身売り圧力も
ケンビューは米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)の消費者部門が2023年に独立して上場した。タイレノールのほかに洗口剤「リステリン」や化粧品「ニュートロジーナ」といった国際ブランドを多数抱える。
ケンビューの時価総額は当初500億ドルを超えていた。だが美容品の販売不振などにタイレノール問題が重なり、最近は300億ドル台で低迷していた。
直近ではアクティビスト(物言う株主)に身売りの検討も迫られていた。7月に前任CEOのモンゴン氏が退任に追い込まれ、米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)出身のペリー氏を後任トップに迎えたばかりだった。
キンバリーによると、ケンビューと同社を合わせた年間の売上高は320億ドル規模となる。同社は投資家向けの発表資料で、ヘルスケア用品やおむつなどの関連部門の売上高が英ユニリーバを抜き、P&Gに次ぐ業界2位となると説明した。ケンビューのブランドと販売網を取り込み、世界競争で優位に立ちたい狙いだ。
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