人工知能(AI)戦略を発表するパナソニックホールディングス=上海市で2025年11月6日、松倉佑輔撮影

 米中対立や景気の失速など課題を抱えつつも、依然として存在感の大きい中国市場。利益を上げるのは簡単ではなくなっている一方で「攻め」の姿勢を続ける日本企業も多い。各社はどのように生き残りを図ろうとしているのか。5日に上海で開幕した「中国国際輸入博覧会」で披露された戦略からはそのヒントも見えてきた。

 輸入博は外国企業が最新の製品や技術を展示するイベントで今年が8回目。日本からは320超の企業が参加した。

 目立ったのは、中国の技術革新を積極的に取り入れた展示だ。

パナソニックが展示している人工知能(AI)を搭載した洗濯機など=上海市で2025年11月6日、松倉佑輔撮影

 パナソニックは6日に開いた戦略発表会で「人工知能(AI)」の活用を強調した。展示されていたのはドラムが四つある巨大な洗濯機。最高性能のAIが内蔵され話しかけるだけで簡単に細かい操作が可能だ。ドラムが四つあるのは、家族でも洗濯物を分別する中国の習慣を取り入れたといい、現地スタッフが中心となって開発した。

 「極端」とも言える機能で競合他社にも類似の製品はない。パナソニックホールディングスの本間哲朗副社長は「外国企業が中国市場で戦っていく時に、中国企業と同じ土俵で価格で勝負しては勝ち目がない」と強調する。

 背景にあるのが「差別化」の必要性だ。中国では近年、過剰生産や節約志向の定着で価格競争が激化。日本貿易振興機構(ジェトロ)の2024年の調査では中国事業の営業利益見込みを「黒字」と回答した日系企業は58・4%で、世界全体(65・9%)を下回る。価格低下で利益が出にくくなっているのが一因で、独自の製品やサービスで付加価値をアピールするのは共通の課題だ。

トヨタ自動車が上海市に建設する「レクサス」新工場の模型=上海市で2025年11月5日、松倉佑輔撮影

 現地化も急ピッチで進んでいる。トヨタ自動車がブースで展示していたのは「レクサス」の上海工場の模型だ。来年秋にも完成予定で現地での電気自動車(EV)生産を加速する。出資するベンチャー企業・小馬智行(ポニー・エーアイ)との自動運転タクシーの新型も披露。新技術の導入に積極的な中国市場で勝負をかける。新型の蓄電池も、トヨタの技術を使いながら合弁先の現地企業の調達網を生かしてコストを下げることで量産化が実現した。

 中小企業や地方企業も、発展途上の市場に目を付けてチャンスをうかがう。

日本貿易振興機構(ジェトロ)のブースでは全国各地の日本酒を展示している=上海市で2025年11月5日、松倉佑輔撮影

 ジェトロのブースには148社が出展、うち100社は全国各地の酒蔵だ。ジェトロ担当者は「甘口の日本酒は中国でも好評。市場はまだまだ伸びる」と強調する。福岡県の担当者は地元企業「TOMOGUCHI」のお菓子「きなこ大豆」をPR。8月から輸出を始めたといい「差別化ができて、コスパが良いと思ってくれれば中国市場では受け入れられる」と期待する。

 近年、日本企業の中国事業は受難が続いた。昨年から日本人が被害に遭う事件も起こり出張や駐在をためらう社員も多かった。中国政府は3日、日本人の短期滞在ビザの免除措置の期限を今年末から来年末まで延長すると発表。企業関係者からは歓迎の声が上がっており、ビジネス往来がさらに活発化するかもポイントとなる。

 米中対立が続くなど、地政学リスクも課題だが、輸入博には米国のテスラやウォルマートをはじめ世界各地138の国と地域の企業が出展した。各国企業も、リスクを見極めながら現実のビジネスをどう進めていくか試行錯誤を続ける。あるメーカーの幹部は「中国に依存してはいけないが、技術や市場の優位性はやはり他の国にはない。この市場で勝負していかないと世界でも戦えない」と危機感を強めている。【上海・松倉佑輔】

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