企業の人事異動に伴う「転勤」について国内主要企業を対象に毎日新聞がアンケートを実施したところ、回答した87社のうち、転勤への配慮を求める社員が「増えた」「やや増えた」と答えた企業が54%に上った。親の介護や育児、配偶者の勤務地を理由に配慮を求める社員が多い。転勤に応じられない社員の増加を経営リスクと捉える声も目立ち、多くの企業が対応を模索している姿が浮き彫りになった。
毎日新聞は8~9月、国内主要126社を対象に、転居を伴う配置転換である転勤の実態や社員の意識を調査することを目的にアンケートを実施。87社から回答を得た。
全87社が「一部の職種・役職」または「すべての社員」に転勤制度があると答えた。制度を設ける理由(複数回答)には「適材適所の人材配置」(94%)や「人材育成」(87%)、「定期的な人事ローテーション」(78%)などが挙げられた。
転勤制度のあり方については「維持すべきだ」が60社(69%)と最多だった。「変更すべきだ」が11社(13%)。「拡大すべきだ」は1社(1%)、「廃止すべきだ」はなかった。残る15社(17%)は無回答など「その他」だった。
2023年度以降の過去3年で転勤への配慮を求める社員が増えたか尋ねた質問では、「増えた」(17社)と「やや増えた」(30社)を合わせると54%と過半数となった。「横ばい」は25社(29%)で、「やや減った」は1社(1%)。「減った」「要望はほとんどない」はいずれもなかった。無回答など「その他」が14社(16%)だった。
共働きの増加と意識変化
社員が配慮を求める事情(複数回答)は「親の介護」(86%)▽「育児」(79%)▽「配偶者の勤務地の都合」(77%)▽「本人の病気・障害」(72%)――などが多く、過去3年で転勤を理由とした退職の有無を尋ねたところ、「ある」とした社が41社(47%)と半数近くに上った。
転勤制度は終身雇用と引き換えに多くの国内企業が導入してきたが、今回のアンケートでは、共働き世帯の増加や新型コロナウイルス禍を経た働き方への意識変化を背景に社員の忌避感が強まりつつあると答える社が多かった。
対応迫られる企業
こうした意識変化について「転勤は不可欠で、事業運営に支障をきたすリスクがある」(運輸)などと危機感を抱く企業も少なくない。「育児や介護などの制約がある社員、転勤を忌避する社員が増加傾向の中、転勤のあり方を見直す必要がある」(化学・工業)、「転勤のない働き方を志向する社員も一定数いることから、選択肢を増やすことは必要」(金融)などと業種を問わず、多くの会社が対応を迫られている。
具体的な対応策としては、社員とコミュニケーションを図った上で勤務地を配慮する他、配偶者の転勤に同行した社員が引っ越し先でリモートワークできるようにしたり、転勤の可否を選べたりする制度を導入する動きがある。転勤者にインセンティブ(報奨)として手当を支給する企業もある。【藤河匠、小坂春乃、塩路佳子、前本麻有】
アンケートにご協力いただいた企業87社
旭化成/アサヒグループジャパン/味の素/伊藤忠商事/SMBC日興証券/AGC/NEC/NTT/大阪ガス/大林組/オンワードHD/鹿島/川崎重工業/関西電力/キヤノン/キリンHD/近鉄グループHD/クボタ/KDDI/コマツ/サッポロビール/サントリーHD/JFEスチール/JR東海/JR東日本/J・フロントリテイリング/資生堂/シャープ/すかいらーくHD/スズキ/SUBARU/住友化学/住友商事/住友生命保険/積水ハウス/セコム/全日本空輸/第一生命保険/大成建設/大日本印刷/大和証券グループ本社/大和ハウス工業/高島屋/中部電力/T&DHD/帝国ホテル/帝人/TDK/電通/東急/東京海上日動火災保険/東芝/東レ/TOTO/TOPPANHD/トヨタ自動車/日産自動車/ニッスイ/日本ガイシ/日本航空/日本製紙/日本生命保険/日本たばこ産業/野村証券/パナソニックHD/富士通/富士フイルムHD/丸紅/みずほフィナンシャルグループ/三井住友銀行/三井不動産/三井物産/三菱ケミカルグループ/三菱重工業/三菱地所/三菱電機/三菱マテリアル/三菱UFJ銀行/明治HD/明治安田生命保険/ヤマト運輸/ライオン/楽天グループ/リクルート/リコー/りそなHD/ローソン
※調査対象とした国内主要126社は業績などに基づき毎日新聞が選んだ。HDはホールディングスの略
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