堀江正博 東急社長

東急が主導する渋谷駅周辺の大規模再開発において、大型複合施設「渋谷スクランブルスクエア」の中央棟、西棟が5月に着工した。完成予定の2031年度には、長らく続く駅周辺の工事が一区切りする。ただ、堀江正博社長は「渋谷駅の周辺を含めれば、工事の進捗は半分にも満たない。再開発は終わらない」と強調する。

――渋谷スクランブルスクエアの中央棟と西棟が着工し、2000年代初頭から続いてきた再開発はいよいよ終盤に入りました。

「終盤を迎えたというのは誤解がある。今回着工した渋谷スクランブルスクエアの工事は渋谷駅の駅舎の上のことだけだ。駅の周りを見渡すと、感覚的な完成度は半分にも満たない」

「再開発の対象はまだまだたくさんある。対象プロジェクトでは開発に向けた準備組合ができ、街のあり方を検討する勉強会も始まっている。駅の再開発が周辺に波及してきている段階で、これは40年ごろまで続いていく」

「そうこうするうちに、再開発当初に着手したビルなどが古くなり、その更新が必要となる。渋谷の再開発は終わらない。我々は渋谷の再開発を、(いまだ完成しない)スペインの建築家ガウディの『サグラダ・ファミリア』と同じだと考えている」

――再開発を通じて企業へのオフィス供給量は増えました。一方で「暮らす」場所としては、渋谷をどうつくっていきますか。

「暮らしの選択肢が多様な街をつくりたい。分譲や賃貸、また短期・長期で暮らすサービスアパートメントのような暮らし方を提案している。社宅として借りられる部屋や、分譲でも不在時は他の人に貸し出せるようなプログラムも用意している」

「東急電鉄の沿線に住んでもらうことも想定している。渋谷駅の乗降客数のうち3分の1が東急電鉄の利用者だ。渋谷で働けば、沿線にも居住してもらえる。バス路線が充実しているのも渋谷の強みだ。家賃の予算に応じて幅広い暮らしを提案できる」

――東急の今後の成長戦略を教えてください。

「我々の強みは(渋谷で得た)収益を渋谷の再開発や沿線に再投資できるということだ。渋谷でオフィス供給増へ投資したことで、オフィス賃料は東京・丸の内との差が縮まってきている。街の価値が上がってきているということだ。他の不動産デベロッパーも渋谷の再開発に投資をする動きが出ており、大変歓迎している」

「東急はオフィスに加え、住宅やホテル、小売りなどの業態も持っている。渋谷に関係する人が増えていけば、我々の事業にも還流してくる。沿線の消費支出が9兆円ほどだが、我々シェアでは8%ほどでまだまだ取りこぼしている。事業間での相乗効果を発揮できる地域コングロマリット(複合経営)を目指す」

堀江 正博氏(ほりえ・まさひろ)1984年(昭59年)慶大法卒、東京急行電鉄(現東急)入社。20年常務執行役員。23年から現職。福岡県出身。

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