
新潟県の花角英世知事が東京電力ホールディングス柏崎刈羽原子力発電所の再稼働を容認すると表明した。最大の焦点だった知事の了解を得て、東電は2011年の福島第1原発事故後、初めての原発運転再開へ大きく前進した。
首都圏への電力供給を担う同原発の再稼働は、日本がエネルギー安全保障と脱炭素を両立していくうえで極めて重要な意味を持つ。東電は福島事故の教訓を忘れず、安全・安心を最優先に準備を進めてほしい。
信頼回復はなお途上
知事は慎重に判断材料を積み上げてきた。県の技術委員会が2月にまとめた報告書が東電の安全管理を「現時点で問題はない」と結論づけたのを受け、県民の公聴会や意識調査を実施。14日には自ら7年ぶりに現場を視察した。
県民調査で「どちらかといえば」も含めて再稼働に賛成したのは50.6%、反対は47.1%だった。知事は21日の記者会見で「判断が割れているのは確かだが、安全対策への理解が深まるほど再稼働に肯定的な傾向が確認できた」と説明した。
原発の必要性・安全性の丁寧な説明や避難路の早期整備といった7項目の要望に国が対応することを条件として、再稼働を認めると述べた。
来月2日に開会する県議会が同意すれば、地元了解の手続きが完了する。再稼働対象の6号機(出力136万キロワット)は核燃料の装荷を終えており、年度内にも発電を開始できる見通しだ。
東日本大震災後に運転を再開した原発14基の大半は西日本に集中し、東日本は東北電力女川2号機のみだ。経済産業省は来年夏の首都圏の電力需給は節電要請が必要な水準まで逼迫すると予測している。柏崎刈羽が再稼働すれば綱渡りの状況を緩和できる。
東電は火力発電の燃料費削減で年1千億円の収支改善が見込める。最大の使命である福島の廃炉や賠償を遂行する一歩としなければならない。先送りしていた経営再建計画の抜本改定を急ぎ、資金確保の方針を示す必要がある。
地元の同意まで長い時間を要した責任は東電自身にある。
原子炉7基で821万キロワットと世界最大の柏崎刈羽は、福島事故の1年後の12年3月に全基が停止した。翌年に6.7号機の再稼働を原子力規制委員会に申請し、津波対策の防潮堤などの整備を踏まえて17年に安全審査に合格した。
ところが21年にIDカードの不正使用や侵入検知装置の不具合などといったテロ対策上の不備が次々発覚し、規制委から23年末まで事実上の運転禁止命令を受けた。
意識調査で賛否が拮抗したように、県民の不信は払拭されていない。直近もテロ対策関連の秘密文書の管理不備が明らかになった。信頼回復は途上と自覚すべきだ。
原発集中立地への不安を緩和するため表明した1.2号機の廃炉検討、地域振興に向けた1千億円規模の資金拠出など、地元との約束も着実に果たさねばならない。
世界に目を向ければ、ロシアのウクライナ侵略や中東情勢の緊迫化、人工知能(AI)普及に伴う電力需要の急増などを背景に、安定供給と脱炭素を同時に満たす解として原発の再評価が進む。
日本も2月に閣議決定した第7次エネルギー基本計画に「原発の最大限活用」を明記し、直近で1割に満たない原発比率を2割程度まで高めるとした。ただし実現へ向けた難題は山積している。
待ったなしの課題山積
停止中の残る原発の再稼働を進め、東西で最大2割違う電気料金の格差是正を図るべきだが、それでは不十分だ。既存原発は老朽化が進み、40年代に4〜5基、50年代には10基以上の建て替えが必要になる。原発の建設には約20年を要する。計画を早急に具体化せねばならない。1基につき1兆円規模という巨額の建設資金の確保に向けても、公的融資などの支援策づくりを急ぐ必要がある。
核燃料サイクルや「核のごみ」の最終処分、福島第1の廃炉など重い課題の解決も待ったなしだ。
日本の原発事業は国が政策をつくり、民間企業が実施する「国策民営」で進んできた。合理的だった半面、両者の責任分担が曖昧だった面は否めない。
原発を活用した安定供給や脱炭素は法律で「国の責務」と位置づけられた。花角知事が求めた7項目の条件へ真摯に取り組むのはもちろん、国がもっと原発推進の前面へ積極的に立ち、電力会社は安全第一で低廉・潤沢な電力供給を果たす。柏崎刈羽の再稼働をその出発点としたい。
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