<左>文部科学省<右>財務省

 予算編成を巡り、文部科学省と財務省は毎年のように対立する。

 2026年度予算は大学への資金が議題になっており、春先には私立大への補助金に関連して財務省から教育の質に疑義が呈される場面があった。

 今度の論点は国立大に配分される運営費交付金だ。

 この20年の実質的な減少幅について、競争的資金へのシフトを強めたい財務省が460億円だと言えば、基盤的経費の確保を目指す文科省は1900億円と主張する。

 大学への公的支出はどうあるべきか、両省の考え方の相違が浮き彫りになっている。

財務省「競争的資金へのシフトを」

 国立大は主に大学の規模や配分実績に応じて配分される運営費交付金と、科学研究費助成事業(科研費)に代表される競争的資金が運営資金となる。

 この運営費交付金の今後について、財務省は11日に開かれた財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の分科会で「競争的資金への更なるシフト、運営費交付金依存度低下目標の設定」をすべきだと促した。

国立大学法人運営費交付金の予算額の推移

 財務省の資料では、24年度の運営費交付金は1兆784億円で国立大学が法人化した04年度比で数字の上では1632億円減少しているが、運営費交付金には退職手当など「教育研究とは直接関係のないものが含まれている」と主張。それらを除くと実質的には460億円の減少にとどまるとした。

 さらに、運営費交付金とは別に各省庁から国立大に交付している24年度の各種補助金などは04年度比で1958億円増えたと指摘。つまり、運営費交付金が減ったとしても、増加した補助金で賄えているのではないかという理屈だ。

 財務省がこうした主張を繰り返すのはなぜか。

 資料では「大学の創意工夫や改革努力を促すために運営費交付金の配分についてメリハリを強化し競争的資金への更なるシフトが必要」などと説明。運営費交付金の依存度は全体的に低下しているが、外部資金を獲得しにくい文系大学や地方大学はまだ依存度が高いとして、実情に応じた目標設定を検討すべきだとしている。

文科省「運営経費が増加」

 これに対し、松本洋平文科相は18日の閣議後記者会見で「財政審の指摘は文科省の考え方とは相違がある」と反論した。

 文科省によると、法人化以降のこの20年で物価の上昇に加え、消費増税や、光熱費、社会保険料などの法定福利費の増加などで運営にかかる経費が1450億円増えた。

 こうした経費がかさむと、教育・研究活動に回せる資金は減少する。財務省の主張に沿って退職手当などを除いても、実質的な減少額は1900億円になると推計する。

閣議後記者会見で運営費交付金についての考えを述べる松本洋平文部科学相=東京都千代田区で2025年11月18日午前9時13分、木原真希撮影

 運営費交付金減少のしわ寄せは学生の学びに及ぶ。施設の老朽化や実験設備の更新に対応できず研究活動に影響が出ており、教員1人あたりが自由に使える研究費は文系理系ともに04年度と比較して70%減少したという。

 また、財務省が増加したと指摘する補助金などは「運営費交付金の穴埋めにならない」という。競争的資金は特定の政策目的に使途を限定された短期的な資金であることから、その研究を維持するためには運営費交付金で支える必要があるとしている。

 25年のノーベル化学賞に選ばれた北川進・京都大特別教授も、受賞決定後に基礎研究を支える基盤的経費の充実を要望していた。

春に私学助成金も問題提起

 これらを踏まえ、松本文科相は「競争的資金を増やしたから運営費交付金を減らせばいいということではない。大学の知的創造性を引き出し、最大化させるためには、運営費交付金と競争的資金とのベストミックスによる支援が必要だ」と訴えた。

 文科省は、今後さらに物価や人件費の上昇により実質的な目減りが加速すると予想されるとして、運営費交付金の増額を求めている。26年度予算の概算要求では25年度比5.7%増の1兆1416億円を要求した。

 文科省の担当者は予算獲得に向け「大学を単に維持するのではなく、日本のイノベーションを先導する存在にならなければ日本社会の発展がおぼつかなくなる。このままでは日本の大学の機能が失われてしまうのではという危機感を持っている」と話した。

 財務省は4月、私学助成金の配分についても問題提起した。一部の私立大で「四則演算やbe動詞など義務教育レベルの授業が実施されている」と指摘し、文科省が「成果に着目すべきだ」と反論していた。

 国立大、私立大の存続に関わる運営費交付金と私学助成金。それぞれどのような形で決着するか、12月の予算編成に向けて注目が集まる。【木原真希】

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