耕作放棄地の猫じゃらしで染めた手ぬぐいを手にする福井プレスの福井伸社長=東大阪市で2025年11月12日午前11時13分、塩路佳子撮影

 一見、何の役にも立ちそうにない雑草や食品廃棄物を有効活用する取り組みが、ものづくりの町・東大阪市の町工場で進んでいる。

 11月中旬、染色会社「福井プレス」であったイベントを訪ねると、耕作放棄地の猫じゃらしで染めた手ぬぐいが販売されていた。茶系の自然な風合いが特徴で、福井伸社長(51)は「均一に染まる化学染料とは違い、天然色素は揺らぎがあることが味わいになる」と仕上がりに自信をのぞかせた。

 この日は、地元のクラフトビール醸造所「INGRY MONGRY(イングリーモングリー)」と協力して作った「猫じゃらしビール」も振る舞われた。原料に焙煎(ばいせん)した猫じゃらしとアワを使用し、後から苦みが追いかけてくる一杯だ。来場者からは「飲みやすい」と好評だった。

 福井プレスではこれまでも、コーヒー豆のかすを使った「珈琲(コーヒー)染め」など廃棄物の有効活用に取り組んできた。

 クリーニング店として1938年に創業し、25年ほど前から染色事業に参入。アパレル会社の下請けとして主に化学染料を使った繊維加工を手がけていたが、2020年のコロナ禍が転機となった。

 受注が激減する中、商品の付加価値を高める手段として目を向けたのが「SDGs(持続可能な開発目標)」だ。珈琲染めの残さをキノコの培土にして、栽培に成功。収穫後の菌床は固形燃料の原料として活用し、最終的には灰として土に返すサイクルを生み出した。大手コーヒーショップ店などからも注目され、福井さんは「アパレル業界以外のつながりができたことは大きい」と手応えを語る。

 今回、雑草に着目したのは「耕作放棄地を巡る課題の解決につなげたい」との思いからだった。市内の身近な場所にも雑草が生い茂る畑が増え、害虫が繁殖すれば周囲に害を及ぼす恐れがある。福井さんは猫じゃらしから“コーヒー”ができることをインターネットで知り、食材や染料への転換を思い付いた。

 雑草や廃棄物を商品に活用する試みについて「東大阪から大きく広がってくれたらうれしい」と福井さんは力を込めた。【塩路佳子】

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